利用報告書
課題番号 :S-16-MS-1054
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :分子性電気伝導体の電子状態解明
Program Title (English) :Electronic Properties Investigation of Molecular based Conductors
利用者名(日本語) :中村敏和1),浅田瑞枝1),吉田幸大2),齋藤軍治2)
Username (English) :T. Nakamura1), M. Asada1), Y. Yoshida2), G. Saito2)
所属名(日本語) :1) 分子科学研究所, 2) 名城大学
Affiliation (English) :1) Institute for Molecular Science, 2) Meijo Univ.
1.概要(Summary )
有機導体BEDT-TTF系は多様な結晶構造と原子価を有し,非常に多くの研究が為されている.最近,開発された(BEDT-TTF)-Ag-(CN)系は,幾つかの多形が存在し,伝導性,量子スピン液体,分子磁性の観点から興味深い.これらの物性の発現機構に迫るために,多周波,パルス法を含むESR測定により電子構造を調べる.加えて,3次元の導電性分子性固体であるコロネンラジカル系についても,磁性ならびに電荷自由度の観点からの理解を進めるためにESR測定を行う.
2.実験(Experimental)
SQUID磁束計(磁化の温度変化,磁場変化)
電子スピン共鳴(CW法による温度変化)
まずは,X-band ESRにより(BEDT-TTF)-Ag-(CN)系およびコロネンラジカル系について,異方性ならびに温度変化測定を行う.単結晶試料による測定により,スピン磁化率,スピンダイナミックス,ラジカルの起源(波動関数の対称性)などを理解することが出来る.ESRパラメータの詳細な温度依存性を計測することにより,低温電子状態(キャリアの遍歴性,電荷状態,次元性など)に関して言及することが可能となる.研究の進捗を見て,多周波,パルスESR計測も行う予定である.必要に応じて,SQUIDによる磁化測定を行いESRで観測している信号との整合性を確かめる.
3.結果と考察(Results and Discussion)
特にコロネンラジカル系について進展が得られたので報告する.X-band (9.67GHz) でのESR測定結果を示す.信号は小さなgシフト,狭い線幅を示し,コロネン上のみにスピンが分布していることが分かる.室温での角度回転ではg値は一定であり,系の高い結晶構造を支持している.一方,ESR線幅は90°周期の角度依存性が観測され,異方性が磁気双極子に起因しているようにも思われる.磁化率に対応するESR吸収線の積分強度は140Kまで顕著な温度依存性を示さないが,140K以下で急激な現象を示し,100K以下でCurie的な増大を示す.ESR線幅は200K以下で増大を示し,140Kでhumpを示す.反強磁性相転移直上で観測される臨界発散のようにも考えられるが,詳細な検討を行っている.また,この相転移的な挙動は温度ヒステリシスがあるように見えるので,この点も追試を行っている.
4.その他・特記事項(Others)
なし
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 浅田瑞枝,中村敏和,吉田幸大,齋藤軍治, 日本物理学会2016年秋季大会, 平成28年9月13日
6.関連特許(Patent)
なし







