利用報告書

単一分子性ディラック電子系[M(dmdt)2]に関する研究
周彪(日本大学文理学部化学科)

課題番号 :S-20-MS-1008
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :単一分子性ディラック電子系[M(dmdt)2]に関する研究
Program Title (English) :Study of Single‐component molecular Dirac electron system
利用者名(日本語) :周 彪
Username (English) :Biao Zhou
所属名(日本語) :日本大学文理学部化学科
Affiliation (English) :Department of Chemistry, College of Humanities and Sciences, Nihon University

1.概要(Summary )
[Ni(tmdt)2]は初めての一種類の分子種から構成された単一分子性金属である。また、この分子の中心金属のNiを他の遷移金属原子に置換すると結晶構造を同型に保ったままで電子物性が異なる一連の単一分子性金属[M(tmdt)2] (M = Ni, Pd, Pt, Au, Cu)が実現された。昨年度tmdtと類似ジチオレン配位子dmdtを用いて[Pt(dmdt)2]を合成し、その電気伝導度、磁化率、バンド計算を行ったところ、常圧下で分子性ディラック電子系であることが判明した。本研究では、[Pt(dmdt)2]と同形構造を取り、ディラック電子系となることが期待できる[Ni(dmdt)2]の合成をし、その物性研究を行った。

2.実験(Experimental)
分子科学研究所でのSQUID型磁化測定装置Quantum Design MPMS-7及びMPMS-XL7を用いて磁気特性の測定を行った。

3.結果と考察(Results and Discussion)
X線構造解析の結果、[Ni(dmdt)2]は[Pt(dmdt)2]と同形構造である事が判明した。[Ni(dmdt)2]の粉末圧縮ペレット試料の伝導度は室温(295 K)で200 S/cm、温度依存性をあまり示さずに、低温(10 K)でも100 S/cmと高い値を示した。磁化率測定では、[Ni(dmdt)2]は強い反磁性を示し、磁化率は室温で0.3×10-4 emu/mol、以降は70 Kで-2.2×10-4 emu/molを示すまで低下し続けた。挙動は[Pt(dmdt)2]と酷似しており、抵抗率と同様にディラック電子系であることが示唆されていた。更に[Pt(dmdt)2]では磁化率が120 Kでのゼロまでしか低下しなかったことと、その変化量が[Pt(dmdt)2]で1.2×10-4 emu/molであったのに対し倍以上の2.5×10-4 emu/molであることから、より強くディラック電子系性が現れていると考えられる。また、東京大学鹿野田研究室による13C-NMRの測定の結果でも、[Ni(dmdt)2]の方が強くディラック電子系性が発現していると示唆されていた。第一原理バンド計算では、[Pt(dmdt)2]と酷似したバンド分散曲線とDOSが得られ、ディラックコーンの存在が確認された。これにより、[Ni(dmdt)2]が確かにディラック電子系であると証明された。

[Ni(dmdt)2]の磁化率及びのディラックコーン

4.その他・特記事項(Others)
なし

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
K. Sakaguchi, B. Zhou, Y. Idobata, H. Kamebuchi, A. Kobayashi, Crystals, 10, (2020) 1001.
A. Hassanien, B. Zhou, A. Kobayashi, Adv. Electron. Mater., 6, (2020) 2000461.
R. Takagi, H. Gangi, K. Miyagawa, E. Nishibori, H. Kasai, H. Seo, B. Zhou, A. Kobayashi, K. Kanoda, Phys. Rev. Research, 2, 033321 (2020).
T. Kawamura, D. Ohki, B. Zhou, Akiko Kobayashi, Akito Kobayashi, J. Phys. Soc. Jpn., 89, (2020) 074704.

6.関連特許(Patent)
なし

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