利用報告書
課題番号 :S-16-MS-0049
利用形態 : 協力研究
利用課題名(日本語) :合成学的アプローチによる複合糖質の動的構造解析
Program Title (English) :Synthetic chemistry approach to dynamic structural analyses of glycoconjugates
利用者名(日本語) :山口拓実, 堀 由樹, 村上真吾
Username (English) :Takumi Yamaguchi, Yoshiki Hori, Shingo Murakami
所属名(日本語) :北陸先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科マテリアルサイエンス系
Affiliation (English) :School of Materials Science, Japan Advanced Institute of Science and Technology
1.概要(Summary )
細胞膜上の糖鎖は、均一に分散するのではなく集積化し、動的な分子認識場として機能している。このようなマイクロドメインを舞台とした生命分子認識において、糖鎖は、相互作用点を多点化することによって高い親和性を獲得している。なかでも、単体では弱く過渡的でしかない糖鎖同士の結合は、クラスター化を通して、細胞間接着をはじめとする秩序形成に重要な役割を果たしている。こうした糖鎖の機能メカニズムの解明やその制御を行うためには、生体膜上に集積する糖鎖クラスターを模倣した化合物を合成することが不可欠である。本研究では、神経細胞の分化に関わるLewis X糖鎖と人工設計した超分子錯体をハイブリッド化したサイボーグ分子を合成し、これを用いたNMR計測により細胞膜上糖鎖クラスターの高次機能発現メカニズムの構造基盤解明を行った。
2.実験(Experimental)
化学合成したLewis X [Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcβ]を含む糖鎖構造と有機配位子を連結した後、配位子分子とパラジウムイオンとの錯形成反応により超分子錯体を得た。調製したLewis Xクラスターのマクロおよびミクロ挙動を、NMR法によって観測した。NMR測定の一部はBruker製Avance-800を用いて行った。
3.結果と考察(Results and Discussion)
Lewis X糖鎖は、神経細胞において分化前の細胞に特異的に発現しており、その幹細胞性の維持を担っている。また、Lewis X糖鎖は互いを認識し、糖鎖間相互作用を示すことが知られている。そこで、機能発現のためのグライコトープとしてLewis Xを含む糖鎖構造を人工超分子にハイブリッドしたサイボーグ分子を合成した。これにより、一義構造をもった球状分子表面に、Lewis Xグライコトープを集積することに成功した。
調製したLewis Xクラスターのマクロ挙動を、NMRおよび動的光散乱法によって観測したところ、このサイボーグ超分子はカルシウムイオン依存的な糖鎖間相互作用によって、水中でより大きな会合体を形成することがわかった。さらに、常磁性NMR法を用いたミクロ計測によって、糖鎖−金属イオン結合の構造基盤情報を収集した。その結果、超分子間会合を誘起するために必要なLewis Xとカルシウムイオンとの相互作用には、糖鎖の化学構造のみならず、その集積形態が重要であることが示唆された。
4.その他・特記事項(Others)
本研究の成果は、加藤晃一博士(岡崎統合バイオサイエンスセンター/分子科学研究所)の研究グループらとの共同研究により得られたものです
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) G. Yan, T. Yamaguchi, T. Suzuki, S. Yanaka, S. Sato, M. Fujita, and K. Kato, Chem. Asian J., 12, 968-972 (2017).
(2) G. Yan, T. Yamaguchi, S. Yanaka, T. Suzuki, M. Fujita, and K. Kato, 2nd International Symposium on Center of Excellence for Innovative Material Sciences Based on Supramolecule, 金沢, 2016年10月26日.
(3) G. Yan, T. Yamaguchi, S. Yanaka, T. Suzuki, M. Fujita, and K. Kato, 日本化学会第97春季年会, 横浜, 2017年3月16日.
6.関連特許(Patent)
「なし」







