利用報告書
課題番号 :S-15-MS-1068
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :含ヨウ素ドナー分子(EDO-TTF-I)を用いた陽イオンラジカル塩の結晶構造解析と
振動分光学的研究
Program Title (English) :Crystal structural and vibrational spectroscopic studies on the radical cation
salts based on iodine-containing donor molecule (EDO-TTF-I)
利用者名(日本語) :中野 義明1), 大江 佳毅1,2), 石川学1)
Username (English) :Y. Nakano1), Y. Oe1,2), M. Ishikawa1)
所属名(日本語) :1) 京都大学低温物質科学研究センター, 2) 京都大学大学院理学研究科化学専攻
Affiliation (English) :1) Research Center for Low Temperature and Materials Sciences, Kyoto University, 2) Department of Chemistry, Graduate School of Science, Kyoto University.
1.概要(Summary)
電解法により、EDO-TTF-IとNO3−、ペンタシアノプロペニド(C3(CN)5−)、C(CN)3−との塩、(EDO-TTF-I)2NO3、(EDO-TTF-I)2C3(CN)5、(EDO-TTF- I)xC(CN)3 (x ≈ 3)を作製した。EDO-TTF-I分子は、NO3塩、C3(CN)5塩ではβ’型、C(CN)3塩ではα’’型の分子配列をとっていた。これら3種の塩の導電挙動は半導体的であり、磁化率も低温部で極大を持つ局在スピン系の挙動を示した。ラマンスペクトルの測定をし、NO3塩、C3(CN)5塩はモット絶縁体、C(CN)3塩は電荷不均化系と結論づけた。
2.実験(Experimental)
ラマンスペクトルの測定には、顕微ラマン分光装置RENISHAW in Via Reflexを用いた。C(CN)3塩のX線構造解析には、極微小結晶用単結晶X線回折装置Rigaku社製 4176F07 CCD-3を用いた。
3.結果と考察(Results and Discussion)
電解法により、EDO-TTF-IとNO3−、ペンタシアノプロペニド(C3(CN)5−)、C(CN)3−との塩、(EDO-TTF-I)2NO3、(EDO-TTF-I)2C3(CN)5、(EDO-TTF- I)xC(CN)3 (x ≈ 3)を作製した。X線構造解析の結果、NO3塩、C3(CN)5塩では、EDO-TTF-I分子はβ’型分子配列をとっていた。C(CN)3塩では、C(CN)3陰イオンのディスオーダーが激しいため、完全な構造解析には至っていないが、α’’型の分子配列をとっていた。また、ヨウ素導入の効果として、これら3種の塩においてside-by-side方向のEDO-TTF-I分子の相対配置に共通点が見られた。これらの塩の導電挙動は半導体的(NO3塩: ρ297K = 2.8 Ω cm, Ea = 195 meV; C3(CN)5塩: ρ297K = 1.9 Ω cm, Ea = 60 meV; C(CN)3塩: ρ295K = 3.2 × 102 Ω cm、Ea = 250 meV)であり、磁化率も低温部で極大を持つ局在スピン系の挙動を示した。
EDO-TTF-I分子の電荷分布を明らかにするために、300 Kから5 Kの間でラマンスペクトルの測定を行った。B3LYP/aug-cc-pVTZ(-PP)レベルで計算したEDO-TTF-I0、EDO-TTF-I+、およびEDO-TTF-I分子の価数が+0.5価と決定されている(EDO-TTF-I)2PF6と各塩の実測のラマンスペクトルを比較したところ、NO3塩、C3(CN)5塩については、既知のPF6塩と同様に、EDO-TTF-I分子の3種のC=C伸縮モードが0価と+1価の中間位置にそれぞれ1本ずつ観測された。また、試料を5 Kまで冷却してもバンドの分裂やブロード化は見られなかった。したがって、NO3塩、C3(CN)5塩では極低温までEDO-TTF-I分子の価数は均一であり、モット絶縁体であると考えられる。一方、C(CN)3塩のラマンスペクトルは、他の塩と異なり多数のバンドが観測され、電荷不均化系と結論づけた。
4.その他・特記事項(Others)
本研究は、JSPS科研費15K17901、分子科学研究所の売市幹大様、岡野芳則様からの支援を受けた。理論計算は、自然科学研究機構計算科学研究センターを利用した。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 大江佳毅,髙橋佑輔,中野義明,石川学,矢持秀起,売市幹大,第9回分子科学討論会,2D13,平成27年9月17日
(2) 石川学,前里光彦,中野義明,平松孝章,賣市幹大,大塚晃弘,矢持秀起,齋藤軍治,第9回分子科学討論会,2D18,平成27年9月17日
(3) 石川学,中野義明,賣市幹大,大塚晃弘,矢持秀起,日本化学会第96春季年会,3E7-37,平成28年3月26日
6.関連特許(Patent) なし。







