利用報告書
課題番号 :S-16-MS-2008
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :含水天体の加熱脱水による有機物への影響の同定
Program Title (English) :Evaluation of influence on organic matters by dehydration of hydrous asteroids.
利用者名(日本語) :中藤亜衣子1), 上椙真之2)
Username (English) :A. Nakato1), M. Uesugi2)
所属名(日本語) :1) 京都大学大学院理学研究科, 2) 高輝度光科学研究センターSPring8
Affiliation (English) :1) Kyoto University, 2) 2JASRI/SPring-8
1.概要(Summary )
隕石中の有機物は多様性に富み、母天体の熱変成や水質変成によって、その化学構造が変化することがわかってきている[e.g., 1, 2]。しかし、多くの先行研究は、不溶性有機物IOMをターゲットとして抽出した分析であり、全岩を用いた「その場」分析・観察はあまり行われていない。従って本研究では、母天体上で水質変成を経験した含水炭素質コンドライトMurchisonと熱変成を経験した炭素質コンドライトAllendeを試料として、集束イオンビーム (FIB)加工装置を用いて試料作成を行い、STXM/NEXAFSによる有機物の「その場」分析・観察を行った。同時に、先行研究により指摘されている試料保管時の汚染[3]、および試料作成法による有機物のダメージ[4]の評価を試みた。
2.実験(Experiment)
Murchison研磨厚片のマトリクスからFIB試料(10×15μm、厚さ100nm) 8つを切り出した。Allende隕石については、試料作成法による有機物へのダメージを同時に検証するため、まず数百um径の岩片を硫黄に埋め、約70 nm厚のミクロトーム試料を複数作成した。その後、同試料を取り出して樹脂埋めし、FIB試料(5×5μm、厚さ100nm)を作成した。STXM及び、C, N, O-NEXAFSで局所微細構造分析を行った。
保管時の汚染評価については、昨年度に引き続き、長期間(トータルで6-8ヶ月間)保管したMurchison試料を用いた。保管時の雰囲気・治具については、それぞれ以下の条件である。【試料治具】シリコンシート、金属、 【保管雰囲気】窒素、真空
3.結果と考察(Results and Discussion)
Murchison試料については、IOMを用いた先行研究と同様に、285 eVに方向族炭素、287.5 eVに脂肪族炭素、288.5 eVにカルボキシル基、290.5 eVに炭酸塩鉱物の吸収ピークが見られた。Murchisonは炭酸塩鉱物ピークを除いて、全試料ほぼ同様のピークが検出され、比較的始原的で均質な化学構造をもつことが再確認された。一方で、Allendeは先行研究で291.5 eV付近に見られるgraphene構造の発達を示す励起子の吸収ピーク [5]が特徴的であると報告されているが、本研究ではFIB試料、ミクロトーム試料どちらにもこのようなピークは見られなかった。これはまさにバルク試料と抽出試料で検出できる有機物の違いを反映していると考えられ、微小領域観察によって熱あるいは原材料由来の不均質を発見できた。今後更なる検証が必要である。MurchisonとAllendeのC-XANES結果から、その他の化学構造による違いは認められなかった。従って、現段階では、全岩試料の「その場」分析・観察では、熱変成による有機物の化学構造の変化への影響は確認できていない。
また、保管時の汚染評価については、昨年度の短期間保管試料の結果と同様に、半年以上保管した全ての試料について、保管環境によらず、C-XANESでの変化は確認されなかった。更に、窒素循環デシケータに保管していた試料についても、N-XANESに明らかなピークは見られなかった。以上の結果から、本研究の条件下では、保管中に汚染は生じないと結論づけることが出来た。
4.その他・特記事項(Others)
参考文献:[1] Kebukawa and Cody, Icarus, (2015) vol. 248, pp. 412-423. [2] Yabuta et al., Meteoritics and Planetary Sciences, (2007) vol. 42, pp. 37-48. [3] M. Uesugi and A. Nakato, UVSOR activity report, (2015), [4] Bassim et al. Journal of Microscopy, (2012) vol. 245, pp. 288-301. [5] Cody et al. Earth and Planetary Science Letters, (2008) vol. 272, pp. 446-455.
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし
6.関連特許(Patent)
なし







