利用報告書
課題番号 :S-17-MS-1094
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :固体NMRによる系統的構造解析のための高効率参照試料の調製法確立
Program Title (English) :Establishment of preparation protocol of reference sample for the study of systematic structural characterization by solid-state NMR
利用者名(日本語) :西村 勝之1) 谷生 道一2)
Username (English) :Katsuyuki Nishimura 1), Michikazu Tanio2)
所属名(日本語) :1)分子科学研究所, 2)国立感染症研究所
Affiliation (English) :1) Inst. for molecular science, 2) Nat. Inst. of Infectious Diseases
1.概要(Summary )
非配向生体分子を対象とした系統的な固体NMR構造解析では、13C, 15N安定同位体全標識された試料を用いてマジック角試料回転(MAS)条件下で解析を行うのが一般的である。これには複数の2次元相関NMRスペクトルの測定が必要になる。これら測定法のセットアップには、各モジュール毎での実験変数の決定が必要な為、測定対象と近い物性を持ち、かつ高感度スペクトルを与え、かつ長期間安定な既知の分子構造を持つ参照試料が必要になる。
本研究では、この条件を満たす高効率な参照試料の調製法を確立することを目的としている。β1 immunoglobulin binding domain of protein G(GB1)の 微結晶を作成し、調製条件を確立する。さらに各種固体NMR実験に適用し、スペクトル感度 、熱安定性、および、繰り返し実験による再現性を検証し、その有用性について検証する。
2.実験(Experimental)
大腸菌による大量発現系を構築し、これを用いて発現し、13C,15N安定同位体全標識、非標識GB1を精製した。既報の条件で各々の試料の微結晶を作成した。全ての固体NMR測定は、分子科学研究所、機器センターBruker社製Avance 600分光器および2.5mm 1H-13C-15N3重共鳴プローブを用いて行った。1次元CPMAS、2次元13C同種核相関固体NMR、Dipolar assisted rotational resonance (DARR)、およびDouble cross polarization (DCP)に基づくNCA、NCO 13C-15N異種相関固体NMRスペクトルの測定を行った。当該試料は構造安定化のため、母液を含有する必要があり、既製品の2.5mmMAS試料管では、脱水が生じるため、含水試料用の回転羽、底キャップを独自に開発した。さらに、同試料管で試料充填後少量のエポキシ接着剤で密封し、水分漏洩がないことを確認した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
再現性のある結晶化条件の確立のため、安定同位体非標識試料を用いて微結晶試料を作成した。天然存在比13Cを観測して、1DのCPMASスペクトルを測定し、そのスペクトル線形を確認し、既報のスペクトルに近いことを確認した。さらに一定の期間を置いて同様な測定を行い、長期安定性の確認を行った。これにより安定性、再現性が確認された結晶化条件を用いて、13C, 15N安定同位体全標識GB1の微結晶試料を調製し、一定の間隔を置いて1次元、および2次元相関NMR測定を行い、試料安定性、および、再現性の確認を行った。13C, 15N安定同位体全標識GB1微結晶試料では、既報のスペクトルと近いエンベロープを示すことが確認できたが、同位体非標識試料に比べ線幅が広く、信号分離が低いことが判明した。また、僅かな結晶化条件の違いで僅かに異なるスペクトルを示す、すなわち、僅かに局所構造が変化することも判明した。2次元相関NMR測定では、極めて高感度で測定が可能なことが判明した。また、3ヶ月程度の期間では、スペクトルの変化は観測されなかった。結論として、同試料は、参照試料として適しているが、調製試料間での完全なスペクトルの同一性を確保するためには、結晶化条件の厳密な再現性が求められることが判明した。
4.その他・特記事項(Others)
なし。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし
6.関連特許(Patent)
なし