利用報告書

固体NMRを用いたPrionフラグメントと脂質膜の相互作用解析
西村勝之1), 谷生道一2)(1分子科学研究所, 2) 国立感染症研究所)

課題番号 :S-20-MS-0036
利用形態 :共同研究
利用課題名(日本語) :固体NMRを用いたPrionフラグメントと脂質膜の相互作用解析
Program Title (English) :Analysis of lipid interaction of prion fragment based on solid-state NMR
利用者名(日本語) :西村勝之1), 谷生道一2)
Username (English) :K. Niahimura1), M. Tanio2)
所属名(日本語) :1分子科学研究所, 2) 国立感染症研究所
Affiliation (English) :1) Institute for Molecular Science, 2) National Institute of Health

1.概要(Summary )
 プリオン病とは、ヒトおよび動物に生じる神経変性疾患の総称であり、プリオンタンパク質が、同疾患に深く関与していると考えられている。生体中に存在する正常型のプリオンタンパク質(PrPc)の高次構造が変化した感染型プリオンタンパク質(PrPSc)のPrPcへの接触により連鎖的に生成されたPrPScが不溶性のアミロイド線維を形成し、脳中枢神経組織に蓄積され、プリオン病が発症すること考えられており、プリオン病はアミロイド病の一種と考えられる。ヒトプリオンタンパク質は、217アミノ酸残基からなるタンパク質であるがN末端側は特定構造を有しないことが報告されている。一方、C末端側は3つのαへリックスと2つの短いβシート構造を有し、C末端にはGPIアンカー部位を有する。C末端側のαヘリックスのいくつかがβシートに変換されることによりβシートリッチな構造へと変化することが判明しているが詳細は未だに不明である。さらに、同タンパク質がどこでどのようにPrPCからPrPScへと構造変化を生じるかは、未だに判明していない。
 本研究では、ヒトプリオンと同様な脂質結合活性を有し、細胞毒性が報告されいている106残基から126残基に相当するPrP(106-126)フラグメントの細胞毒性発現分子機構の解明を目的に、まず固体核磁気共鳴(NMR)を用いた解析からPrP(106-126)フラグメントペプチドのモデル脂質膜への結合部位同定を試みた。

2.実験(Experimental)
 ペプチド合成機を用いた固相化学合成、逆相HPLC精製によりPrP(106-126)を調製した。POPC及びGM1を含有したリポソームを調製し、PrP(106-126)ペプチド溶液を添加してプロテオリポソームを調製した。高速遠心器による遠心沈降したプロテオリポソームを測定試料を調製した。
 固体NMR測定は分子科学研究所機器センターBruker社製Avance 600 固体NMR分光器、及び2.5mm 1H13C15N 3重共鳴magic angle spinning (MAS)固体NMRプローブを用いて行なった。独自に開発した含水試料測定用の2.5mm試料管に、調製した水和脂質試料を密閉した。リポソーム、及びプロテオリポソームに関して13C-CPMASなどの測定を行った。

3.結果と考察(Results and Discussion)
 脂質の天然存在比同位体13C信号を観測した。リポソームのみの13C-NMRスペクトルから脂質の構成脂質の信号帰属を行なった。さらにプロテオリポソームの13C-NMRスペクトルと前者の比較から、脂質上のPrP(106-126)フラグメントペプチド結合部位の同定を試みた。脂質特定部位でのみ化学シフト値変化が観測され、同脂質分子上のPrP(106-126)フラグメントペプチドの選択的結合部位の同定に成功した。

4.その他・特記事項(Others)
MAS:試料管を静磁場から54.7°傾けた軸の周りを高速回転させることにより異方的相互作用を時間平均する手法。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
無し

6.関連特許(Patent)
無し

©2024 Molecule and Material Synthesis Platform All rights reserved.