利用報告書

多周波EPR法を用いた光合成反応過程の解析
三野広幸1),梅名泰史2) 秋田総理2)(1) 名古屋大学院理学研究科2)岡山大学異文化基礎科学研究所3)岡山大学院自然科学)

課題番号 :S-20-MS-1007
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :多周波EPR法を用いた光合成反応過程の解析
Program Title (English) :Analysis of photosynthetic reaction process investigated by multi-frequency EPR利用者名(日本語) :三野広幸1),梅名泰史2) 秋田総理2)
Username (English) :H. Mino1) Y.Umena2), S.Akita2)
所属名(日本語) :1) 名古屋大学院理学研究科2)岡山大学異文化基礎科学研究所
             3)岡山大学院自然科学
Affiliation (English) :1) Grad. School of Sci., Nagoya Univ.
             2) Res. Inst. for interdiscip. Sci., Okayama University
3) Grad. School of Nat. Sci. and Tech., Okayama University,

1.概要(Summary )
光合成反応は光エネルギーを化学エネルギーに変換する多くの反応からなる過程である。光合成反応の主要課題としては反応中心タンパク質中の電子移動経路と電子移動機構の謎、高等植物の酸素発生機構の謎、光センサー応答などがあげられる。なかでも光合成の酸素発生機構は光合成研究における最大の謎とされ、長年多くの研究が行われてきた。2011年岡山大学の沈のグループにより酸素発生を行う光化学系Ⅱタンパク質複合体のX線結晶構造解析が1.9Åの分解能でなされた(Umena et al., nature, 2011)。反応機構はまだわかっていない。 酸素発生機構というのは4光子、つの中間状態(S0 からS4)の絡む反応であり、プロトンの放出や構造変化を伴いながら反応が進行する。 結晶構造解析で明らかになった構造はそのうち最も安定な中間状態(S1状態)であり、その構造がどのように変化して酸素発生を導くのかは依然謎である。 特に酸素発生時のクラスターの構造変化(S3⇒S0)は最重要である。S3状態については現在でもマンガンの価数などの論争が続いており状態が明らかになっていない。 2017年度沈らのグループはX線自由電子レーザーを用いてS3状態の構造を発表している(nature)。自由電子レーザーを用いた研究では米国のグループとの間でも論争になっている(Kern et al.,nature,2018)。本研究はX線結晶解析と同じ試料を同じ条件のEPRでとらえ、酸素発生系について磁気構造及び相補的な情報を得ることを目的としている。あわせて、光合成関連タンパク質の光受容反応についても解析している。
2.実験(Experimental)
光化学系Ⅱタンパク質複合体はホウレンソウ由来のものは名古屋大学において、好熱性シアノバクテリア由来のものは岡山大学において、紅藻由来のものは中国のKey Laboratoryによりそれぞれ精製した。光化学系I関連の鉄硫黄タンパク質試料は東京工業大学で精製した。
 測定は分子科学研究所のBrukerE500およびBrukerE680, Bruker EMXを用いて極低温から室温にかけて測定を行っている。

3.結果と考察(Results and Discussion)
 光化学系ⅡのS2状態の構造は従来は低スピン状態g ~ 2 スピン状態g ~4の2つの異性体によって説明されてきた(図1)。低スピン状態はopen cubaneと呼ばれ高スピン状態はclosed cubaneと呼ばれ量子化学計算など多くの研究ではS2-S3遷移はclosed cubaneから行われると考えられてきた。これに対して最近の自由電子レーザーによ

る構造解析ではS2-S3遷移においてclosed cubane構造が観測されていない。これらの矛盾は論争になっている。
 本年度g ~ 5をもつ S2中間体が存在することを新たに発見したTaguchi et al., J. Phys. Chem Lett. (2020), Taguchi et al., J. Phys. Chem B (2020), 図2。ここで発見したg ~ 5信号の解析から4つのマンガン上の電子スピン分布を求めた。この状態はS2-S3遷移における基質水分子とりこみのための中間的な分子構造として提案している。

4.その他・特記事項(Others)
なし

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) Taguchi, S., Noguchi, T. and Mino, H., J.Phys. Chem. B.124(2020) 5531-5537
(2) Taguchi,S.,Shen, L., Han,G., Umena, Y.,Shen, J-R., Noguchi,T., and Mino,H., J.Phys. Chem. Lett. 124(2020) 5531-5537
(3) Trinh, M, Miyazaki D., Ono, S., Nomata, J., Kono, M., Mino, H., Niwa, T., Okegawa, Y., Motohashi, K., Taguchi, K,, Hisabori, T., and Masuda, S., iScience 24,(2021)102059.
(4)三野広幸, 野口巧, 田口翔太, 第58回生物物理学会年会 令和2年9月16日
(5)三野広幸,野口巧,田口翔太,第58回電子スピンサイエンス学会年会 令和2年11月13日
(6) 三野広幸, 田口翔太, Liangliang Shen,Guangye Han,梅名泰史, 沈建仁, 野口巧, 第62回日本植物生理学会年会 令和3年3月14日

6.関連特許(Patent)
なし

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