利用報告書

多核金属錯体多量体の開発と同定
阿部 正明1), 田原 圭志朗1)
1) 兵庫県立大学 大学院物質理学研究科

課題番号 :S-19-KU-0048
利用形態 :技術代行
利用課題名(日本語) :多核金属錯体多量体の開発と同定
Program Title (English) :Synthesis and characterization of oligomers of polynuclear metal complexes
利用者名(日本語) :阿部 正明1), 田原 圭志朗1)
Username (English) :M. Abe1), K. Tahara1)
所属名(日本語) :1) 兵庫県立大学 大学院物質理学研究科
Affiliation (English) :1) University of Hyogo, Graduate School of Material Science

1.概要(Summary)
 配位化合物(金属錯体)を集積化してつくる配位高分子・配位ネットワーク・MOF(金属有機構造体)の研究が、高性能な分子材料や分子デバイスの開発などの観点から注目を集め、近年急速な発展を遂げている。ナノメートルスケールの金属錯体やクラスター化合物の合成とその同定は、高分子量を持つ複雑系分子の多様な電子物性と機能を設計する上での礎となる。分子量が比較的小さないわゆる「小分子」については、単結晶を育成し単結晶X線構造解析することが、分子の3次元構造を原子レベルで決定するために重要であることは論を俟たない。しかしながら分子と分子を連結化した「大分子」「巨大分子」については、その単結晶作製と単結晶X線構造解析は必ずしも容易ではない。その際、質量分析は強力なツールとなり得る。特にイオン性の巨大分子についてはエレクトロスプレーイオン化質量分析 (ESI-MS) は威力を発揮することが知られる。我々は先に、ルテニウム三核錯体 (以下”Ru3”と略記) を二座の架橋配位子により連結化した巨大環状クラスターを数種合成している。本研究では、最近我々が新しく単離したものの、単結晶化に成功していない2種の大環状クラスターをESI-MSにより同定することを試みた。
2.実験(Experimental)
次に示す大環状クラスター1および2をCH2Cl2に溶解し、JEOL製JMS-T100LC AccuTOF装置を使用し、positiveモードにて測定した。
 [Ru3O(EtCOO)6(MeOH)(-dabco)]6(PF6)6 (1)   
 [Ru3O(EtCOO)6(dabco)(-dabco)]6(PF6)6 (2)
試料はいずれも全体電荷+6のヘキサカチオン性環状クラスターであることが予想される。化合物1では、その環状フレームワーク辺縁部にMeOHが末端配位子として配位するのに対し、化合物2では同位置にdabcoが単座配位する。分子量はそれぞれ5411.1、5891.9と予想されるが、z = 6であることを考慮すると、m/z = 901.9 (化合物1) および982.0 (化合物2) のピークも検出されることが推察される。
3.結果と考察(Results and Discussion)
 化合物1では、m/z = 983.01359をピークとするフラグメントが最大値として観測され、さらに構成配位子がイオン化過程で順次解離したと思われる低分子量フラグメントが観測された。一方、化合物2ではm/z = 982.04944をピークとするフラグメントが最大値として観測され、化合物1と同様に、低分子量フラグメントが合わせて観測された。前者は予想値と異なっており化合物組成を再検討する必要がある。後者については、観測ピークは予想値に合致したものの、その同位体パターンではピーク間隔が1.0であったことから、イオン化過程において大環状クラスターが結合解離し、モノカチオン性のモノマーとして質量検出された可能性が示唆された。今回の測定では大環状ヘキサマーの組成を裏付けるには至らず、合成と質量分析の双方の条件検討を要することが判明した。ただし今回の測定からはRu3錯体のフラグメントピークは明瞭に観測されたことから、同種化合物の同定に強力なツールとなることは確信された。
4.その他・特記事項(Others)
ESI-MSの測定にあたり、工学部技術部、増子隆博氏の支援を受けました。また本研究は科研費新学術領域「配位アシンメトリー」の資金援助(JP16H06514)のもと遂行しました。ここに謝意を表します。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 森本悠斗, 田原圭志朗, 小澤芳樹, 阿部正明, 日本化学会第100春季年会, 令和2年3月22日.

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