利用報告書

多環芳香族炭化水素のレーザー分光
国重沙知
京都大学大学院理学研究科

課題番号 :S-16-MS-1038
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :多環芳香族炭化水素のレーザー分光
Program Title (English) :Laser Spectroscopy of Polycyclic Aromatic Hyrdocarbons
利用者名(日本語) :国重沙知
Username (English) :Sachi Kunishige
所属名(日本語) :京都大学大学院理学研究科
Affiliation (English) :Graduate School of Science, Kyoto University

1.概要(Summary )
多環芳香族炭化水素は基本分子モデルとして重要であるばかりでなく、半導体や光学素子への応用という観点からも興味深い分子である。ここでは、その中でも対称性が高いコロネンとコラヌレンについて、超音速エット中でのレーザー分光を行い、それぞれの分子の構造と励起分子ダイナミクスを明らかにすることを目的とする。特に、これらの分子で特徴的なコリオリ相互作用について詳細な解析を行い、理論計算の結果と比較検討する。

2.実験(Experimental)
超音速ジェット中で極低温に冷却したコロネンおよびコラヌレンの孤立分子を生成し、けい光励起スペクトルと分散けい光スペクトルを測定する。本研究では,機器センター所有の大出力のナノ秒パルス色素レーザーシステム(Spectra-Physics, Lambda Physik GCR-250, ScanmateOPPO)を用いた。

3.結果と考察(Results and Discussion)
この施設利用では、コロネンとコラヌレンの超音速ジェット分光を行い、それぞれでけい光励起スペクトルを測定した。図1は、Coronene-h12とCoronene-d12の超音速ジェット中のけい光励起スペクトルである。S1←S0遷移は禁制なので、0-0バンドは強度をもたない。観測された主要な振電バンドは、e2g振動のv’=1への遷移である。これらは、S3状態との振電相互作用によって強度を得ており、Coronene-h12とCoronene-d12で振動エネルギーも強度もかなり異なる。Gaussian09プログラムパッケージを用いて計算された振動エネルギーを参考に、これらの基準振動の帰属を行ったが、計算と実験の一致はとてもよかった。
同様の測定を、コラヌレン分子でも行い、コロネンと類似したスペクトルが観測された。不純物の影響があって、まだ質の高いスペクトルは取れておらず、帰属も確実ではないので詳細は省略するが、コロネンと同様に、対称性の高い分子の特徴がよく表れている。
これらの結果から、分子の構造や励起分子での輻射、無輻射遷移のダイナミクスを知ることができるが、さらに測定を重ね、正確な議論を目指したい。

4.謝辞
本研究の遂行に当っては、山中孝弥技術職員と中川信代事務支援員に大変お世話になりました。深く感謝いたします。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
Sachi Kunishige, Ayumi Kanaoka, Toshiharu Katori, Megumi Kawabata, Masaaki Baba, Takaya Yamanaka,Shuhei Higashibayashi, and Hidehiro Sakurai, J. Chem. Phys. 146, 044309 (2017)

6.関連特許(Patent)
なし。

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