利用報告書

導電性配位高分子の電子状態の解明
大久保貴志1) 
1) 近畿大学理工学部

課題番号 :S-20-JI-0005
利用形態 :技術代行支援
利用課題名(日本語) :導電性配位高分子の電子状態の解明
Program Title (English) :Elucidation of Electronic States for Conductive Coordination Polymers
利用者名(日本語) :大久保貴志1)
Username (English) :T. Okubo1)
所属名(日本語) :1) 近畿大学理工学部
Affiliation (English) :1) Faculty of Science and Engineering, Kindai University

1. 概要(Summary )
配位高分子は金属イオンと有機架橋配位子からなる無機有機複合材料であり、本研究では導電性を有する配位高分子を独自に合成し、その電子状態を明らかにした上で、薄膜太陽電池や電界効果トランジスタ(FET)などへの応用に向けた研究を行っている。それと同時にπ共役有機材料の薄膜太陽電池や有機EL素子への応用研究も行っている。今回、有機薄膜太陽電池への応用を目指して合成したトリベンゾチオフェン誘導体についてそのエネルギー準位を明らかにすることを目的として光電子分光測定(AC-2、理研計器)の測定を行った。

2.実験(Experimental)
トリベンゾチオフェン誘導体の粉末サンプルを用いてAC-2(理研計器)を用いて光電子分光測定を行い、その仕事関数を見積もった。また、紫外—可視吸収スペクトルの測定よりトリベンゾチオフェン誘導体のHOMO-LUMOのエネルギー差を求め、それらの値を用いてHOMO、LUMO準位を決定した。また、トリベンゾチオフェン誘導体とポリチオフェンP3HT(3-ヘキシルチオフェン-2,5-ジイル)を用いて薄膜太陽電池を作製し、その光電変換特性を評価した。

3.結果と考察(Results and Discussion)
図1に合成したトリベンゾチオフェン誘導体の分子構造を示す。中心のトリベンゾチオフェンの外側にアルキルチオフェンとアクセプターユニットであるロダニン誘導体を含むドナー・アクセプター型の三回対称性分子で、薄膜太陽電池のみならず有機FETなど様々な有機電子デバイスへの応用が期待される。図2に光電子分光測定の結果を示す。アクセプターユニットのないBTT-OTの仕事関数が5.50 eV、アクセプターユニットを含むBTT-OT-ORD(図1左)とBTT-OT-OTZDM(右)の仕事関数がそれぞれ、5.59 eVと5.67 eVであった。紫外—可視吸収スペクトルの吸収端からHOMO-LUMOのエネルギー差を計算し、そこからBTT-OT-ORDとBTT-OT-OTZDMのLUMOをそれぞれ-3.42 eVと-3.57 eVと決定した。

図1,トリベンゾチオフェン誘導体、BTT-OT-ORD(左)とBTT-OT-OTZDM(右)の分子構造

図2,トリベンゾチオフェン誘導体の光電子スペクトル

次にポリチオフェンP3HTとトリベンゾチオフェン誘導体を用いた有機薄膜太陽電池を作製して評価した。作成した太陽電池の素子構造はITO/ZnO2/P3HT:トリベンゾチオフェン誘導体:MoO3/Agである。擬似太陽光照射下で電流密度J-電圧V測定を行い、太陽電池素子の特性を評価したところ、アクセプターとしてフラーレン誘導体PCBMを用いた太陽電池に比べて光電変換特性は低下したものの、高い開放電圧VOCを示すことが明らかになった(表1)。今回のトリベンゾチオフェン誘導体に関しては、三元系有機薄膜太陽電池も作成し、評価するともに、更に高効率な有機薄膜太陽電池の開発にむけて新たな誘導体の合成も行っている。

表1,トリベンゾチオフェン誘導体を用いた有機薄膜太陽電池の光電変換特性
Acceptor JSC [mA cm-2] VOC [V] FF PCE [%]
1 1.39 0.74 0.46 0.47
2 2.84 0.83 0.48 1.13
PCBM 7.92 0.52 0.53 2.17

4.その他・特記事項(Others)
本研究の一部はJSPS科研費新学術領域研究「ソフトクリスタル」公募研究(18H04527、20H04679)、基盤研究C(19K05513)、村田学術振興財団からの助成を受けたものである。また、今回光電子分光の実際の測定において北陸先端科学技術大学院大学の村上達也博士および木村一郎氏に大変お世話になりました。この場を借りて感謝申し上げます。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 田中悠希,山下和大,江副日菜多,前川雅彦,黒田孝義,松本浩一,大久保貴志, 日本化学会第101春期年会, 令和3年3月21日.

6.関連特許(Patent)
なし

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