利用報告書
課題番号 :S-17-MS-3002
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :希釈冷凍機と小型圧力セルを接続するアダプターの製作
Program Title (English) :Production of the adapter which connects a small pressure cell with dilution refrigerator
利用者名(日本語) :田嶋尚也
Username(English) :Naoya Tajima
所属名(日本語) :東邦大学
Affliation(English) :Toho Univ.
1.概要(Summary )
我々は、高圧力下にある2次元層状構造の有機導体-(BEDT-TTF)2I3がゼロギャップ電子系であることを発見した。世界で最初にバルク(多層構造)で実現した2次元ゼロギャップ電気伝導体である。最近、山本教授と須田助教の協力を得て、この系特有のランダウ準位構造に起因した量子磁気抵抗振動や量子ホール効果の観測に成功した。
多層ディラック電子系における量子ホール効果では、各層の量子ホール状態の単純な重ね合わせではなく、層間の交換クーロン相互作用による層間コヒーレンスが新たな量子ホール状態や特異なスピンテクスチャを産み出すことが予想される。さらには、この系は電子間相互作用が強いことから分数量子ホール効果が実現することが期待される。
以上の量子現象を観測するには、より低温環境が必要である。本研究では、20mKまで冷却可能な貴研究機関設備の希釈冷凍機を使用し、分数量子ホール効果等の検出を計画した。この研究計画を遂行するために、高圧力セルを希釈冷凍機に接続するアダプターを貴研究機関の装置開発室にて作製した(図1)。
2.実験(Experimental)
電気分解法により厚さ100~200 nm程度の分子性導体: -(BEDTT-TTF)2I3の薄片単結晶を合成する。得られた単結晶をPEN基板電極に張り付けることで、分子性導体をチャネル層としたトランジスタ構造を作製した。
作製したデバイスは量子輸送現象を詳細に解析することを目的に装置開発室にある段差計とAFMにて薄片試料の厚みおよび、表面評価を行った。
以上の手法で作製・選出した良質のデバイスの高圧力下・極低温環境で量子輸送現象を調べた。
3.結果と考察(Results and Discussion)
最初に、作製したデバイスを量子磁気抵抗振動から評価した。電気抵抗の温度依存性、明瞭な量子磁気抵抗振動の観測から、正孔注入に成功したことを確認した。さらに、量子磁気抵抗振動の位相解析から、作製したデバイスはディラック電子系であることを確認した。また、フェルミエネルギーはディラック点から-54Kに位置する。
このデバイスについて、100 mKの極低温で量子ホール効果を調べた。残念ながら、分数量子ホール効果は検出できていないが、これまで観測できていなかったN=-1ランダウ準位のゼーマン分裂によるν=-4の量子ホール効果を新たに検出することができた(図2)。
分数量子ホール効果を検出するには、キャリア注入量を制御する必要がある。また、現デバイスの低温における易動度は約105 cm2/Vsであるが、106 cm2/Vs以上の高易動度デバイスを作製する必要がある。
4.その他・特記事項(Others)
なし。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) N. Tajima,
“Switching Control of Non-Trivial and Trivial Berry’s Phases in Molecular Massless Dirac Fermion Systems”
International Symposium on Crystalline Organic Metals, Superconductors and Ferromagnets 2017 (Miyagi), 2017年9月28日 招待講演
(2) 田嶋尚也, 川椙義高, 須田理行, 山本浩史, 加藤礼三, 西尾豊, 梶田晃示, Miguel Monteverde
“分子性ディラック電子系への電子注入効果”
日本物理学会第73回年次大会, 2018年 3月22日.
6.関連特許(Patent)
なし。