利用報告書

強磁性薄膜上イオン液体の磁気特性
江口 敬太郎
名古屋大学大学院理学研究科

課題番号 :S-17-MS-2016
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :強磁性薄膜上イオン液体の磁気特性
Program Title (English) :Magnetic property of an ionic liquid deposited on a ferromagnetic film
利用者名(日本語) :江口 敬太郎1)
Username (English) :K.Eguchi1)
所属名(日本語) :1) 名古屋大学大学院理学研究科
Affiliation (English) :1) School of Science、Nagoya University

1.概要(Summary)
強磁性薄膜上に吸着した磁性金属錯体は、強磁性薄膜との磁気相互作用により、バルクにおける磁気特性とは異なる磁気特性を示すことがあり、そのメカニズムの理解および磁気特性の制御を目的として研究が行われている。本研究では、磁性イオン液体を単層膜レベルで強磁性薄膜上に作成し、磁性イオン液体と強磁性薄膜との磁気相互作用について検討した。強磁性薄膜上に作成した磁性イオン液体の薄膜は、測定温度6.5K、磁場5Tにおいて磁化した状態が確認されたが、磁場0Tにおける磁化は確認されなかった。そのため、本実験において使用した磁性イオン液体と強磁性薄膜の磁気相互作用は、測定温度6.5Kに比べ弱いということが分かった。

2.実験(Experimental)
本実験は、自然科学研究機構分子科学研究所極端紫外光研究施設(UVSOR-III)のビームライン4Bに設置された高磁場極低温X線磁気円二色性分光測定装置(7T、3.8K)を用いてX線磁気円二色性の測定を行った。試料の作成は同装置に付属した超高真空装置を用いて行った。

3.結果と考察(Results and Discussion)
本実験では、磁性イオン液体をSi基板上に滴下した試料、強磁性基板上の単層膜試料および多層膜試料、反磁性基板上の単層膜試料の4つの試料についてX線吸収分光測定およびX線磁気円二色性測定を温度6.5Kにて行った。まず、作成した試料の基板上における配向について調べるため、NのK吸収端におけるX線吸収スペクトルの角度依存測定を行った。その結果、得られたスペクトルは角度依存性を示さなかった。そのため、各種基板上においてイオン液体はランダムな配向状態で吸着していることが分かった。
次にイオン液体内に含まれる磁性金属イオンのL吸収端におけるX線磁気円二色性測定を行った。すべての試料において磁場5Tを印加した条件下ではX線磁気円二色性のシグナルが得られた。得られたX線磁気円二色性の強度からスピン磁気モーメントを計算した結果、単層膜試料では10¬–20%程度多層膜試料のスピン磁気モーメントに比べて小さな値をとることが分かった。これは、基板表面における構造の変化または金属基板との相互作用に由来するものであると考えられる。
強磁性基板との磁気相互作用について検討するため、強磁性基板上の単層膜のイオン液体の試料について磁場0TでX線磁気円二色性の測定を行ったが、磁化していることを示唆するシグナルは得られなかった。

4.その他・特記事項(Others)
謝辞:本研究課題はJSPS科研費15J11122の助成を受けたものです。本研究課題は、分子科学研究所の横山利彦教授との共同研究です。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) K. Eguchi, T, Yokoyama and K. Awaga, The 17th International conference on X-ray Absorption Fine Structure, July 2018 (submitted).
(2) K. Eguchi, T, Yokoyama and K. Awaga, The 16th International conference on molecule-based magnets, September 2018 (submitted).

6.関連特許(Patent)
なし

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