利用報告書

後架橋可能な高分子を修飾した膜蛋白質可溶化試薬の開発
嶋本太郎, 水野稔久
名古屋工業大学大学院工学研究科

課題番号 :S-19-NM-0002
利用形態 :技術代行
利用課題名(日本語) :後架橋可能な高分子を修飾した膜蛋白質可溶化試薬の開発
Program Title (English) :Development of solubilization surfactants for membrane proteins with post-crosslinkable polymers
利用者名(日本語) :嶋本太郎, 水野稔久
Username (English) :T. Shimamoto, T. Mizuno)
所属名(日本語) :名古屋工業大学大学院工学研究科
Affiliation (English) :Graduate School of Engineering, Nagoya Institute of Technology

1.概要(Summary)
本研究では、複数の親水性高分子鎖で膜蛋白質の超分子複合体を1ユニットごとに取り囲むことが可能な、新規の高分子修飾可溶化試薬の開発を検討した。膜蛋白質表面を親水性の高分子鎖で不可逆的に覆う事で、可溶化試薬を全く含まないバッファー水溶液中でも取り扱うことが可能となり、クライオ電子顕微鏡・多次元NMRを駆使した立体構造解析や、膜蛋白質を用いた分子素子開発を支援する新規試薬として有効となることを期待した。
後架橋可能なポリアクリルアミド系高分子(poly(AA/DAAM); Mn ~ 5, 10, 20 kDa)と当研究室で以前に開発された膜蛋白質可溶化試薬(DKDKC12K)を複合化することで、新規高分子修飾試薬(DKDKC12K-poly(AA/DAAM)n; n = 5000, 10000, 20000)を設計した(具体的な化学構造は、Fig. 1参照)。またこの試薬の機能評価を行う膜蛋白質には、シアノバクテリアの光合成明反応で中心的な役割を果たしている、光化学系I(PSI, 1068 kDa, Fig. 2)を用いた。
予め定法に従いβ-DDMを可溶化試薬に用いて単離精製されたPSIをDKDKC12K-poly(AA/DAAM)n (n = 5000, 10000, 20000)で再可溶化し、ここでpoly(AA/ DAAM)に対する架橋剤であるアジピン酸ジヒドラジド(ADH)を添加後、ゲルカラムクロマトグラフィーにかけた。その結果、β-DDMなどの可溶化試薬を含まないバッファー中でのPSIの可溶化が可能となった(Fig. 3参照)。このそれぞれのPSIサンプルについて、紫外可視吸収スペクトル、77Kにおける蛍光スペクトル測定を行なったが、PSIに分光学的な変性は見られなかった(Fig. 4参照)。またこのサンプルをTEM測定用のグリッドへキャストして形態観察を行なった。その結果、DKDKC12K-poly(AA/DAAM)n (n = 5000, 10000)を用いて可溶化したサンプルについては、複数のPSI粒子が紐状に連なった形態で可溶化されていることがわかった一方で、DKDKC12K-poly(AA/DAAM)n (n = 20000)を用いて可溶化したサンプルについては、PSIが1ユニットごとに分散して可溶化できていることがわかった(Fig. 3)。
以上のことから、DKDKC12K-poly(AA/DAAM)n (n = 20000)を用いて不可逆的に取り囲むことで、PSIを1ユニットことでサーファクタントフリーなバッファー中で可溶化させることが可能であることがわかった。今後は、具体的にこの試薬で可溶化された膜蛋白質が、立体構造解析への利用が可能か検討を進めていく。
2.実験(Experimental)
【利用した主な装置】
 ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)装置
 動的光散乱(DLS)装置
 透過型電子顕微鏡(TEM)装置
 紫外可視分光光度計装置
 蛍光分光光度計装置
【実験方法】
 DKDKC12K-poly(AA/DAAM)n (n = 5000, 10000, 20000)のpoly(AA/DAAM)n (n = 5000, 10000, 20000)部分は、ジチオピリジル基を含むRAFT試薬を用いたRAFT重合法により合成を行なった。GPC装置により、分子量評価を行なった。可溶化試薬として機能するDKDKC12K部分は、Fmoc固相合成法により合成を行い、逆相HPLCにより単離精製をおこなった。両者を複合化した目的物も、逆相HPLCにより単離精製をおこなった。DKDKC12K-poly(AA/ DAAM)n (n = 5000, 10000, 20000)単独でのバッファー溶液中での凝集構造の評価は、DLS測定装置により行なった。TEM装置により、高分子で被覆された膜蛋白質の形態評価を行なった。紫外可視分光光度計装置、蛍光分光光度計装置により、高分子で被覆されたPSIの分光学的性質を評価した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
後架橋可能なポリアクリルアミド系高分子(poly(AA/DAAM); Mn ~ 5, 10, 20 kDa)と当研究室で以前に開発された膜蛋白質可溶化試薬(DKDKC12K)を複合化することで、新規高分子修飾可溶化試薬(DKDKC12K-poly(AA/DAAM)n; n = 5000, 10000, 20000)を設計した(Fig. 1)。poly(AA/DAAM)とは、アクリルアミド(AA)とジアセトンアクリルアミド(DAAM)の共重合体であるが、ジチオピリジル基を含むRAFT試薬を用いたRAFT重合法により合成を行なった。AAとDAAMのユニット比は8:2とし、Mnが5, 10, 20 kDa程度のものを合成し利用した。可溶化試薬DKDKC12Kは、poly(AA/DAAM)とのチオール部分を介した結合を可能とするために、システイン残基をN末端側に追加したDKDKC12KCを用いた。両者をつないだ目的物は、HPLCにより単離精製を行なった。

Y- -X-
DKDKC12KC Ac-Cys-Lys- -Asp-Lys-Asp-Lys-
Poly(AA/DAAM)5000-DKDKC12K
Poly(AA/DAAM)10000-DKDKC12K
Poly(AA/DAAM)20000-DKDKC12K
Fig. 1 Chemical structures of the polymer-appended solubilization surfactants, DKDKC12K-poly(AA/DAAM)n (n = 5000, 10000, 20000).
DKDKC12K-poly(AA/DAAM)n (n = 5000, 10000, 20000)は、いずれも中性バッファー溶液中で安定に溶解した。またDLS測定より、10 nM〜100 µM程度の濃度範囲においては、溶液濃度によらず15-30 nm程度の凝集構造を形成することがわかった。
 またこの試薬の機能評価を行うのには、シアノバクテリアT. vulcanusの光合成明反応で中心的な役割を果たしている、光化学系I(PSI, 1068 kDa, Fig. 2)を用いた。

Fig. 2 Three-dimensional structure of PSI; PSI has a supra-molecular trimeric structure (Mw 1068 kDa) and after phot-irradiation stable charge-separated state (lifetime -30 ms) and the subsequent reduction for the electron acceptor are occurred.

予め定法に従いβ-DDMを可溶化試薬に用いて単離精製されたPSIをDKDKC12K-poly(AA/DAAM)n (n = 5000, 10000, 20000)で再可溶化し、ここでpoly(AA/DAAM)に対する架橋剤であるアジピン酸ジヒドラジド(ADH)を添加後、ゲルカラムクロマトグラフィーにかけた(この際の溶離液には、いずれの可溶化試薬は添加していない)。

Fig. 3 PSI samples after gel filtration; PSI was first solubilized with the polymer-appended solubilization surfactant, DKDKC12K-poly(AA/DAAM)n (n = 5000, 10000, 20000) or β-DDM and it was subjected for gel filtration.

その結果、β-DDMで可溶化されたPSIサンプルについてはゲルカラム途中で全て不溶化してしまい溶出液には、PSIに特徴的なクロロフィル色素の色が見られなくなったが、DKDKC12K-poly(AA/DAAM)n (n = 5000, 10000, 20000)で再可溶化したサンプルについては、いずれもゲルクロマトグラフィー後も、そのままの状態で溶出された。ゲルクロマトグラフィーの過程で、PSIに結合していないDKDKC12K-poly(AA/DAAM)nの分離もできているため、ここで単離されたものは、いうならばPSI/DKDKC12K-poly(AA/DAAM)n複合体の単離に対応する。
 単離されたPSI/DKDKC12K-poly(AA/DAAM)n複合体のサンプルについて、紫外可視吸収スペクトル、77Kにおける蛍光スペクトル測定を行なった。PSIは非常に数多くのクロロフィル色素やカロテノイドを含んでおり、各種スペクトルがコントロールとなる未変性サンプルと一致していることは、蛋白質の立体構造に変性をきたしていないことの大きな証拠となる。そこで、PSIがnative状態を保持できる条件とされる0.1 wt β-DDMを含むバッファー溶液中でのそれぞれのスペクトルと比較し評価を行なったところ、いずれもスペクトルの一致が見られ、DKDKC12K-poly(AA/DAAM)nによって可溶化単離されたPSI(すなわちpoly(AA/DAAM) nで被覆されたPSI)は、変性していないことがわかった(Fig. 4は吸収スペクトルのデータ)。

Fig. 4 Comparison of absorption spectra of PSI conjugated with DKDKC12K-poly(AA/DAAM)n (n = 5000, 10000, 20000) and that solubilized with 0.1wt β-DDM.
  またこのサンプルをTEM測定用のグリッドへキャストして形態観察を行なった(Fig. 5)。PSIはTEM測定により1ユニットごとの分子構造が観測可能であり、更に得られた多数の画像を重ね合わせた画像解析により、より詳細な分子構造の解析も可能と知られている。DKDKC12K-poly(AA/ DAAM)n (n = 5000, 10000)を用いて可溶化したサンプルについては、複数のPSI粒子が紐状に連なった形態で可溶化されていることがわかった一方で、DKDKC12K-poly(AA/DAAM)n (n = 20000)を用いて可溶化したサンプルについては、PSIが1ユニットごとに分散して可溶化できていることがわかった(Fig. 5)。ここで観測された粒子径は、コントロールとなる高分子で被覆されていないPSIの粒子径と類似しており、本研究の目的となる、親水性高分子で膜蛋白質を1ユニットごとに被覆することが、DKDKC12K-poly(AA/DAAM)n (n = 20000)により可能であることが示唆された。

Fig. 5 TEM images of the PSI/DKDKC12K-poly(AA/ DAAM)n (n = 5000, 10000, 20000) conjugates and PSI solubilized with β-DDM (control); acceleration voltage 100 kV, negative stained with sodium phosphotungstate.

4.その他・特記事項(Others)
本研究で利用したポリアクリルアミド系高分子poly(AA/ DAAM)n (n = 5000, 10000, 20000)の分子量は、国立研究開発法人 物質・材料研究機構 技術開発・共用部門 分子・物質合成プラットフォーム 李潔博士に評価をして頂いた。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 嶋本 太郎, 川上 恵典, 出羽 毅久, 神谷 信夫, 伊藤 繁, 水野 稔久, アクリルアミド系高分子修飾PG-surfactantの膜蛋白質可溶化挙動の評価, 第68回高分子学会年次大会, 2019. 5. 30.
(2) 嶋本 太郎, 川上 恵典, 水野 稔久,不可逆な架橋反応が可能な高分子鎖を修飾したPG-surfactantの膜蛋白質可溶化挙動, 第13回バイオ関連化学シンポジウム2019,2019.09.04.
(3) 嶋本太郎, 川上惠典, 神谷信夫, 水野稔久, 界面活性剤フリーな膜蛋白質利用手法の検討, 第9回CSJ化学フェスタ2019, 2019.10.15.
(4) T. Shimamoto, K. Kawakami, N. Kamiya, T. Mizuno, “Solubilization properties of the polyacrylamide-conjugated PG-surfactants for membrane proteins”, ISNM2019, 2019.12.04.

6.関連特許(Patent)
なし

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