利用報告書

感染症の新規診断法開発のための分子生物学的研究
木村久美子
農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究部門

課題番号 :S-17-NM-0028
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :感染症の新規診断法開発のための分子生物学的研究
Program Title (English) :Molecular biological studies for the development of novel diagnostic methods for equine infectious diseases
利用者名(日本語) :木村久美子
Username (English) :K. Kimura
所属名(日本語) :農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究部門
Affiliation (English) :National Institute of Animal Health, National Agriculture and Food Research Organization (NARO)

1.概要(Summary )
原因の特定が困難な馬の感染症について、LMD法を病理学的診断に応用し、病性鑑定における病理組織学的検査精度の向上に資することを目的とする。本年度は、細菌感染症、ウイルス感染症および真菌感染症に関して、以下の通り検討を行った。

2.実験(Experimental)
【利用した主な装置】
 Laser Micro Dissection System

【実験方法】
(1) Salmonella Abortusequi(グラム陰性菌)およびRhodococcus equi(グラム陽性菌)を3週齢マウスの腹腔内に接種し、発症時に剖検、ホルマリンおよびメタカン固定後に常法に従いパラフィン包埋切片を作製した。切片上の菌塊のみをLMD法で切り出し、DNA抽出し、細菌の16S rDNA共通領域のプライマーを用いてPCRを行い、その産物をシークエンス解析した。また、同様の方法で野外細菌感染例についても検討した。
(2) 馬鼻肺炎野外感染例の肺および胸腺について、LMD法を用いた遺伝子解析を試み、EHV-1に対する免疫組織化学(IHC)の結果と比較した。
(3) 喉嚢真菌症野外例を用いてLMD法を用いた遺伝子解析を試み、IHCの結果と比較した。

3.結果と考察(Results and Discussion)
(1) S.Abortusequi感染マウスの解析では、nested PCR等の技術を組み合わせることによりホルマリン固定材料からのシークエンス解析に成功した。一方、R.equi感染マウスではホルマリン固定材料からの検索は困難で、メタカン固定材料を用いた解析のみ成功した。さらに野外例では、グラム陰性菌あるいは陽性菌の感染に関わらず、病理組織像から想定される細菌とは異なる細菌が検出された。以上の結果より、LMD法による病原遺伝子の解析には固定液の影響が大きいと考えられた。また、実験感染例と野外例では、感染している病原細菌の菌塊の大きさ、細菌の密度および増殖活性が異なること、更にパラフィン包埋ブロック作製過程における各試薬を介した常在菌の混入等、種々の要因が影響すると考えられた。
(2) 肺では免疫組織化学的検査結果とLMD法による検出率に相関性がみられた。一方、胸腺では免疫組織化学的検査結果とLMD法による検出率は完全には一致しなかった。胸腺の組織学的特徴により、LMD法を用いても多数のリンパ球が混入するためと考えられた
(3) 菌種特異的プライマーおよびユニバーサルプライマー(ITS領域、D1/D2領域)を用いた病原体遺伝子の増幅に成功した。しかし、シークエンス解析はIHCの結果とは一致しなかった。細菌感染野外例の検索と同様に、病変内にみられる真菌の密度や活性、検査材料採材および作製過程における土壌真菌の混入等、種々の要因が影響すると考えられた。
一連の検索より、ユニバーサルプライマーを用いた細菌および真菌感染症例の検索では、固定液の影響や組織ブロック作製行程の常在菌の混入等、種々の要因が影響すると考えられた。ウイルス感染症例の検索では、病変分布や組織構築に考慮した採材が有効であると考えられた。LMD法を病性鑑定に用いるためにはこれらの状況を考慮し、病理組織学的検査と併せて慎重に検討する必要があると考えられた。

4.その他・特記事項(Others)
NIMS李香蘭氏に装置取り扱いで支援を受けた。

共同研究者
日本中央競馬会競走馬総合研究所
片山芳也、上野孝範、越智章仁
農研機構 動物衛生研究部門
小林秀樹、小西美佐子
北海道日高家畜保健衛生所

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 木村久美子、小林秀樹 他, 平成29年度日本獣医師会学術学会年次大会, 平成30年2月12日

6.関連特許(Patent)
なし

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