利用報告書
課題番号 :S-17-SH-0017
利用形態 :共同研究型支援
利用課題名(日本語) :抗腫瘍活性を有する(S)-Erypoegin Kの不斉合成
Program Title (English) :Asymmetric synthesis of (S)-Erypoegin K having antitumor activity
利用者名(日本語) :金田典雄
Username (English) :N. Kaneda
所属名(日本語) :名城大学薬学部
Affiliation (English) :Faculty of Pharmacy、Meijo University
1. 概要(Summary )
当研究室ではこれまでにボリビアデイゴ(Erythrina poeppigiana)樹皮からイソフラボンである(S)-Erypoegin Kを単離し、ヒト白血病細胞株HL-60に対して強力な細胞死誘導活性を有することを見出している。しかし、その光学異性体である(R)-Erypoegin Kは細胞死誘導活性を示さない。本研究では白血病以外の腫瘍細胞に対する細胞死誘導活性を検討し、さらに動物個体に対する抗腫瘍効果を検討する。今後、(S)-Erypoegin Kに特異的な標的タンパク質を探索し、(S)-Erypoegin Kの抗腫瘍活性の作用機構を明らかにすることを目指している。
2. 実験(Experimental)
本研究の化合物の化学合成には信州大学分子・物質合成プラットフォーム共同研究事業に基づき、信州大学(上田キャンパス)の合成装置を使用した。まず、イソフラボン骨格を有するGenisteinを出発材料として、prenyl基をp-Claisen-Cope 転移により導入し、Lupiwighteoneを合成した。その後、光学活性を有するDiester fructose法を用いて、光学活性エポキシ体を経て、 (S)-および(R)-Erypoegin Kを合成した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
天然由来のErypoegin Kはラセミ体であり、含量が極めて低いことから、本研究では不斉合成を行い、再結晶を繰り返して最終的に光学純度96〜98%の (S)-Erypoegin K(活性型)ならびに (R)-Erypoegin K(不活性型)をそれぞれ4グラムずつ取得することに成功した。今回これらの試料を用いて、細胞死誘導活性の機序について検討した。
まず合成品は1H-NMR、質量分析などの分析において天然物と同一の分析値を示した。ヒト白血病細胞株HL-60を用いた生物活性においても天然物と同等の細胞死誘導活性を示したことから、化学合成が正しく行われたことが確認できた。さらに(S)-Erypoegin Kは細胞死誘導活性を有するのに対し、(R)-Erypoegin Kは有さないことも確認された。これらの細胞死はアポトーシスによることが示された。一方、ヒト胃がんや肺がん細胞などの固形癌に対しても、細胞死を誘導したが、一部の細胞株ではアポトーシス以外の機序が関与することが示唆され、今後、細胞内シグナル伝達の解明が必要である。
3. その他・特記事項(Others)
本研究においてご支援いただきました信州大学繊維学部教授浅尾直樹教授ならびに支援員の方に感謝致します。本研究の一部は平成28年度文部科学省科学研究費補助金基盤研究(C)(課題番号:16K08311)ならびに平成29年度名城大学総合研究所学術研究奨励助成「研究成果展開事業費」の支援を受けて行われたものであり、感謝致します。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1)K.Hikita,N.Hattori,A.Takeda,Y.Yamakage,R.Shibata,S.Yamada,K.Kato,T.Murata,H.Tanaka,and N.Kaneda, J. Nat.Med, Vol.72(2018) p.260-266.
(2) 疋田清美、杉山実咲季、村田富保、浅尾直樹、加藤國基、田中 斎、金田典雄、第90回日本生化学会大会、平成29年12月6日.