利用報告書

新規キラルアセン二量体の合成と一重項分裂
酒井隼人1)
1) 慶應義塾大学理工学部化学科

課題番号 :S-20-NR-0004
利用形態 :共同研究
利用課題名(日本語) :新規キラルアセン二量体の合成と一重項分裂
Program Title (English) :Singlet fission in chrial acene dimers
利用者名(日本語) :酒井隼人1)
Username (English) :H. Sakai1)
所属名(日本語) :1) 慶應義塾大学理工学部化学科
Affiliation (English) :1) Department of Chemistry, Faculty of Science and Technology, Keio
University,

1.概要(Summary )
一重項分裂 (SF) は、近隣二分子間で一光子吸収から二つの三重項励起子を生成する光物理過程で、量子収率が最大200%まで達するため、高効率な光エネルギー変換系の構築が期待できる。ペンタセンのようなアセン分子は、SF発現可能な代表的な分子で、これら分子をさまざまなユニットで架橋した二量体で分子内SFは数多く観測されている。SFが観測されているアセン二量体の構造に着目してみると、アキラル分子がほとんどを占めている。一方、キラルペンタセン二量体のSFの例はわずか一報のみであるが、このキラルペンタセン二量体では、キラル分子特有のキロプティカル特性は発現できていない。本研究では、SF発現可能なペンタセンを優れた異方性を有するビナフチルで架橋したキラルペンタセン二量体((Pen)2BIN)(Fig. 1) を合成し、SFの関与する励起状態とキロプティカル特性の関連について参照化合物(Pen-ref)検討した。

Fig. 1 キラルペンタセン二量体と参照化合物の構造

2.実験(Experimental)
キラルペンタセン二量体を合成し、構造決定を行った。定常分光測定、CD測定や過渡吸収測定を行い、光物性評価やSFの評価を行った。
3.結果と考察(Results and Discussion)
(Pen)2BINの合成はビナチルとペンタセンのカップリングを基盤とする経路で合成した。(Pen)2BINの定常分光測定をPen-refと比較検討した。(Pen)2BINの吸収スペクトルは、ペンタセン同士の電子カップリングによる長波長シフトが観測された (Fig. 2A)。(Pen)2BINの蛍光スペクトルでは、強い蛍光消光が観測され、SFが示唆された (Fig. 2B)。
(A)

(B)

Fig. 2 (Pen)2BINのトルエン溶液中の定常分光測定
キラル特性を評価するため、CDスペクトル測定を行った(Fig. 3)。S体とR体で上下対称のスペクトルが観測され、1対1のキラル化合物であることが明らかとなった。得られたスペクトルを解析すると600-700 nmにかけてペンタセンのCDシグナルが観測され、ペンタセンのキラル分光特性が示された。

Fig. 3 (Pen)2BINのトルエン溶液中のCDスペクトル

SFを評価するため、(Pen)2BINのフェムト秒過渡吸収(fsTA)測定をトルエン溶液中、励起光として590 nmのレーザーを用いて測定を行った(Fig. 4)。

Fig. 4 (Pen)2BINのトルエン溶液のfsTAスペクトル
ペンタセンの一重項に対するから三重項へのスペクトル変化が観測され、SFの発現が明らかとなった。一重項の成分が主となる波長450 nmの減衰曲線に対して指数関数フィッティングを行い、SFの速度定数を1.3×109 s-1と決定した。

4.その他・特記事項(Others)
「2020年度試行的利用の採択を受け実施した」

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) A. Hirono, H. Saka, S. Kochi, T. Sato, T. Hasobe, Journal of Physical Chemistry B, Vol. 124 (2020) p.p. 9921-9930.
(2) K. Yoshino, H. Sakai, Y. Shoji, T. Kajitani, H. Anetai, T. Akutagawa, T. Fukushima, N. V. Tkachenko, T. Hasobe, Journal of Physical Chemistry B, Vol. 124 (2020) p.p. 9921-9930.
A. Hirono, H. Saka, S. Kochi, T. Sato, T. Hasobe, Journal of Physical Chemistry B, Vol. 124 (2016) p.p. 11910-11918.
(3) H. Sakai, N. V. Tkachenko, T. Hasobe, 2020年光化学討論会, 令和2年9月9日.
(4) K. Tsuda, H. Sakai, T. Hasobe, 2020年光化学討論会, 令和2年9月11日.
(5) S. Nakanura, H. Sakai, N. V. Tkachenko, T. Hasobe, 2020年光化学討論会, 令和2年9月11日.

6.関連特許(Patent)
なし。

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