利用報告書

新規ポリオキソメタレート錯体の電気化学的酸化還元反応メカニズムの解析
上田 忠治,平原 太陽
高知大学理学部

課題番号 :S-15-MS-1002
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :新規ポリオキソメタレート錯体の電気化学的酸化還元反応メカニズムの解析
Program Title (English) :Analysis for redox mechanism of novel polyoxometlates
利用者名(日本語) :上田 忠治,平原 太陽
Username (English) :T. Ueda, H. Hirabaru
所属名(日本語) :高知大学理学部
Affiliation (English) :Faculty of Science, Kochi University

1.概要(Summary )
ポリオキソメタレート錯体(POM)は,触媒化学,分析化学,生化学,材料化学等の広い分野において,活発な研究が進められている非常に興味深い物質の一つである。しかし,POMの電気化学的酸化還元反応メカニズムは,非常に複雑で長い年月をかけて研究が行われているにも関わらず,不明瞭な部分が数多く残されている。そこで本研究では,新規のPOMおよびそれに関連した既報のPOMの電気化学的酸化還元挙動に関する理論的な解析を行った。
2.実験(Experimental)
サイクリックボルタンメトリー等の電気化学的手法を駆使して,POMの酸化還元挙動を詳細に調べた。特に,POMの酸化還元に及ぼす酸およびLi+の効果を詳細に調べた。さらにPOMの還元体のESRスペクトル(EMX-plus)からPOMの酸化還元活性部位に関する有用な情報を得るとともに,POMの酸化体の183W NMRスペクトル(JNM-LA500)の測定から,POMの酸化体と酸との相互作用を明らかにした。これらすべての結果を満足するような酸化還元反応メカニズムを基にして,サイクリックボルタンメトリーのシミュレーションを行い,POMの酸化還元挙動の定量的な解析を試みた。
3.結果と考察(Results and Discussion)
POMの電気化学的酸化還元反応メカニズムを解明するために,アセトニトリル中におけるKeggin型構造の[XVM11O40]n- (X=S, P, As, V; M=Mo, W)およびWells-Dawson型構造の[S2FeW17O61]5-の酸化還元挙動を詳細に解析した。
支持電解質として0.1 M [n-Bu4N][PF6]を含むアセトニトリル中における[XVM11O40]n- (X=S, P, As, V; M=Mo, W)のサイクリックボルタモグラム(CV)を測定した。その結果,POMに応じて複数の可逆な1電子還元波が現れた。EPR測定の結果から,どの錯体も最も正電位側に現れる酸化還元波は,V(V/IV)の酸化還元に由来することが分かった。特に,POMのV(V/IV)に着目して,この溶液に様々な濃度のLi+を添加してCVを測定した。すると,[SVM11O40]3-に関しては,かなり過剰のLi+を添加しても変化はほとんどなかった。しかし,それ以外のPOM場合は,Li+の濃度に応じて,ピーク電位が正電位側にシフトした。さらに,Li+存在下における電解前の183W, 51V NMR測定も行った。CV,NMRおよびESRの結果から考えられる酸化還元反応メカニズムを基にしてCVのシミュレーションを行い,Li+存在下における[XVM11O40]n- (X=P, As, V; M=Mo, W)電気化学的酸化還元反応メカニズムを定量的に明らかに出来た。一方,[S2FeW17O61]5-についても同様な解析を行った。その結果,最も正電位側に現れる酸化還元波は,Fe(III/II)の酸化還元に対応していることが分かった。また,溶媒中に含まれる水が,[S2FeW17O61]5-の電気化学的酸化還元に大きく影響受けることも分かった。現在は,CVのシミュレーションを行って,電気化学的酸化還元反応メカニズムを定量的に解析している。
4.その他・特記事項(Others)
この研究の一部は,科学研究費補助金(基盤研究(C): 課題番号25410095)のもとに行われた。また,本研究を行うにあたって,高知大学大学院総合人間自然科学研究科理学専攻1年生の平原太陽君,モナッシュ大学のProf. Alan M. Bond, Dr. Jie Zhang, Dr. John F. BoasおよびDr. Si-Xuan Guo氏に協力を頂いた。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) T. Ueda, Y. Nishimoto, R. Saito, M. Ohnishi, J.-i. Nambu, Inorganics, 3, 355-369 (2015).
(2) T. Ueda, M. Ohnishi, D. Kawamoto, S-X. Guo, J. F. Boas, A. M. Bond, Dalton Trans., 44, 11660-11668 (2015).
(3) T. Ueda, Review of Polarography, 61, 11-19 (2015).
6.関連特許(Patent)
なし。

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