利用報告書

新規蛍光分子Dansyl-TAPの単分子白色発光メカニズムの解明
難波康祐, 中山淳, 米良茜, 西尾賢
徳島大学大学院医歯薬学研究部

課題番号 :S-15-MS-0046
利用形態 :共同研究
利用課題名(日本語) :新規蛍光分子Dansyl-TAPの単分子白色発光メカニズムの解明
Program Title (English) :Mechanistic Elucidation of Novel White Fluorescence Dansyl-TAP
利用者名(日本語) :難波康祐, 中山淳, 米良茜, 西尾賢
Username (English) :K. Namba, A. Nakayama, A. Mera, S. Nishio
所属名(日本語) :徳島大学大学院医歯薬学研究部
Affiliation (English) :Graduate School of Pharmaceutical Science, Tokushima University

1.概要(Summary)
当研究室では、特異な双極性構造を有する10π系芳香族1,3a,6a-トリアザペンタレン(TAP)が優れた蛍光発色団であることを見出している(J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 11466; Org. Lett. 2012, 14, 5554; Chem. Sci. 2015, 6, 1083)。このTAPの誘導体を種々合成したところ、アミノ基部位をTAPに置き換えたダンシル誘導体(Dansyl-TAP) がジクロロメタン中で白色蛍光を示すことを発見した。文献調査の結果、単分子でありながら溶液中かつ室温で白色蛍光を示す分子は極めて珍しく、本分子は画期的な白色蛍光単分子であることが分かった。さらに、Dansyl-TAPは分子量327のコンパクトな化学構造を特徴としており、最小の化学構造と白色蛍光との組み合わせを利用した様々な応用研究が期待できる。Dansyl-TAPは424 nmと576 nmの二つの蛍光極大を示し、これらの蛍光が可視光領域をカバーしているために白色となる。この二つの蛍光極大のうち、576 nmの蛍光はTAPからナフタレン環へのCT遷移によるものであることが計算によって示されたが、424 nmの蛍光の由来は不明のままとなっており、いずれの蛍光成分についても実験科学的な帰属が必要であった。そこで本研究課題では、正岡准教授、東林助教の協力の下、Dansyl-TAPの白色蛍光の発光メカニズムを解明する。
 2.実験(Experimental)
• 蛍光スペクトル測定
(脱酸素条件、種々の酸・塩基存在下での測定)
• 分光用クライオスタット(低温蛍光測定装置)
(0 °C, -20 °C, -60 °C, -80 °Cでの測定)
• 電気化学測定装置
(サイクリックボルタンメトリー)

3.結果と考察(Results and Discussion)
1)先の576 nmの蛍光が、TAPからナフタレン環へのCT遷移によるものであることが、低温測定によって確認できた。すなわち、576 nmの蛍光は、0 °C および −20 ℃では観測されたものの、-60 °C および -80 ℃ では消失した。これは、低温では構造変化に必要なエネルギーが励起状態で得られず、CT遷移による蛍光が消失したことを示している。一方、424 nm の蛍光は -80 ℃の低温測定でも変化はなかったことから、local excitation に由来する発光であることが示唆された。
2)種々の条件での蛍光スペクトル測定を行ったところ、576 nmのCT遷移による蛍光は時間と共に消失し、424 nmの蛍光のみとなった。576 nmの蛍光が本来のDansyl-TAPの蛍光であり、424 nmの蛍光はDansyl-TAPの分解物である可能性も示唆された。
3)DFT計算により、TAP環上のカチオンラジカルが非常に不安定であることが示唆され、実際にCV測定によりDansyl-TAPは酸化条件に対して不安定であることが分かった。したがって、励起状態におけるTAP環上のカチオンラジカルが424 nmの蛍光を示す化合物へと分解された可能性も示唆された。
 以上の結果より、424 nmの蛍光はナフタレン環に由来するlocal excitationあるいは励起状態で構造変化した化合物の蛍光のどちらかであることが明らかとなった。今後は分解物の構造を特定し、424 nmの蛍光成分を明らかにする予定である。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 西尾賢、中山淳、難波康祐, 日本薬学会第136年会, 平成28年03月28日(謝辞に分子科学研究所記載).

6.関連特許(Patent)
なし

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