利用報告書

新規金属導入ポリオキソメタレート錯体の酸化還元反応メカニズムの解析
上田忠治1),東 慎也2)
1) 高知大学総合科学系複合領域科学部門, 2) 高知大学理学部

課題番号 :S-19-MS-1005
利用形態 :施設利用
利用課題名(日本語) :新規金属導入ポリオキソメタレート錯体の酸化還元反応メカニズムの解析
Program Title (English) :Detailed voltammetric behavior of novel metal-substituted polyoxometalates
利用者名(日本語) :上田忠治1),東 慎也2)
Username (English) :T. Ueda1), S. Azuma2)
所属名(日本語) :1) 高知大学総合科学系複合領域科学部門, 2) 高知大学理学部
Affiliation (English) :1) Division of Interdisciplinaly Science, Kochi University, 2) Faculty of
Science, Kochi University

1.概要(Summary )
ポリオキソメタレート錯体(POM)は,触媒化学,分析化学,生化学,材料化学等の広い分野において,活発な研究が進められている非常に興味深い物質の一つである。しかし,POMの電気化学的酸化還元反応メカニズムは,非常に複雑で,長い年月をかけて研究が行われているにも関わらず,不明瞭な部分が数多く残されている。そこで本研究では,新規金属導入POMの電気化学的酸化還元反応メカニズムに関する定量的な解析を行った。
2.実験(Experimental)
サイクリックボルタンメトリー等の電気化学的手法を駆使して,支持電解質としてn-Bu4NPF6を含むアセトニトリル中におけるPOM の酸化還元挙動を詳細に調べた。特に,POMの酸化還元に及ぼす酸,Li+や有機分子の効果を詳細に調べた。酸,Li+や有機分子共存下におけるPOMの酸化体および還元体のESRスペクトル(EMX-plus)から,POMの酸化還元活性部位と有機分子との相互作用に関する有用な情報を得た。これらすべての結果を満足するような酸化還元反応メカニズムを基にして,サイクリックボルタンメトリーのシミュレーションを行い,POMの酸化還元反応の定量的解析を試みた。
3.結果と考察(Results and Discussion)
今年度は,銅を導入した新規POMである[SCuW11O39]4-(SCuW11)と[S2CuW17O61]6-(S2CuW17)の酸化還元メカニズムを詳細に解析した。この銅を導入したPOMは,-550 ~ -750 mV(vs. Fc/Fc+)の間に脱着的酸化波が現れるが,対応する吸着的還元波が現れないことが特徴的である。第1還元波よりもわずかに負側の電位においてバルク電解を行い,使用した電極の表面をSEMで観察すると,表面に小さい粒子が付着していることが確認された。その粒子部分をEDSで測定すると, 銅に対応するピークは現れたが,タングステンのピークは,ほとんど検出されなかった。これらの結果から,第1還元電位において,POM中のCu(II)が還元されCu(I)となり,この不安定なCu(I)がCu(I) → Cu(0) + Cu(II)の不均化反応によってCu(II)とCu(0)へと変化し,Cu(0)はPOMから脱離し電極表面上に吸着していることが示唆された。
4.その他・特記事項(Others)
本研究を行うにあたって,オーストラリアのモナッシュ大学の Prof. Alan M. Bond, Dr. John F. Boas, Dr. Jie Zhang および Dr. Si-Xuan Guoに協力を頂いた。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) T. Hasegawa, M. Iwaki, S.W. Kim, T. Ueda, K. Uematsu, K. Toda, M. Sato, Blue-light-pumped wide-band red emission in a new Ce3+-activated oxide phosphor, BaCa2Y6O12:Ce3+: Melt synthesis and photoluminescence study based on crystallographic analyses, J. Alloys Comp., 797, 1181-1189 (2019).
(2) T. Hasegawa, Y. Nishiwaki, F. Fujishiro, S. Kamei, T. Ueda, Quantitative Determination of the Effective Mn4+ Concentration in a Li2TiO3:Mn4+ Phosphor and Its Effect on the Photoluminescence Efficiency of Deep Red Emission, ACS Omega, 4, 19856-19862 (2019).
(3) S. Azuma, T. Kadoguchi, Y. Eguchi, H. Hirabaru, H. Ota, M. Sadakane, K. Yanagisawa, T. Hasegawa, T. Ueda, Metal-substituted tungstosulfates with Keggin structure: Synthesis and characterization, Dalton Trans., 49, 2766-2770 (2020).
(4) H. Hirabaru, D. Kawamoto, M. Ohnishi, H. Ota, M. Sadakane, K. Yanagisawa, T. Hasegawa, T. Ueda, New Path for Polyoxometalates: Controlled Synthesis and Characterization of Metal-Substituted Tungstosulfates, Eur. J. Inorg. Chem., 666-666 (2020).
6.関連特許(Patent)
なし

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