利用報告書

新規鉄(II)スピンクロスオーバー錯体のメスバウアー分光測定
萩原宏明1)
1) 岐阜大学教育学部

課題番号 :S-16-NI-18
利用形態 :共同研究
利用課題名(日本語) :新規鉄(II)スピンクロスオーバー錯体のメスバウアー分光測定
Program Title (English) :Mössbauer spectroscopic studies on noble iron(II) spin crossover complexes
利用者名(日本語) :萩原宏明1)
Username (English) :H. Hagiwara1)
所属名(日本語) :1) 岐阜大学教育学部
Affiliation (English) :1) Faculty of Education, Gifu University

1.概要(Summary )
利用者のグループでは、次世代分子メモリー、スイッチング素子の候補物質の一つであるスピンクロスオーバー(SCO)錯体の新規合成に取り組んでいる。今回、メチル基の有無という僅かな置換基の違いにより室温以上で急激なSCOを示す中性単核鉄(II)錯体[FeIILPh(NCS)2] (1)と室温以下でSCOを示す[FeIILp-Me-Ph(NCS)2] (2)を作り分けることができたため、それらの室温、及び220 Kにおけるメスバウアー分光測定を行い、磁化率の測定結果と比較した。

2.実験(Experimental)
結晶試料を乳鉢ですりつぶして粉末化し、結晶配向がランダムであることを担保するためにシリコーン製真空グリースと練り合わせたものを高純度Al箔に挟み込んで、透過法により57Feメスバウアースペクトルを測定した (面積15  15 mm2,Fe換算で ~5 mg cm−2)。低温測定には液体窒素フロー型クライオスタットを使用した。線源のドップラー速度範囲は 4 mm s−1であり、速度校正は -Fe箔標準試料を用いて行い、 -Feのスペクトルの重心位置を速度0 mm s−1の基準に設定した。

3.結果と考察(Results and Discussion)
図1に室温 (300 K)、及び220 Kにおけるメスバウアースペクトルを示す。錯体1は、300 K (K0337)にてアイソマーシフト = 0.34 mm s−1、四極子分裂EQ = 0.74 mm s−1のダブレットからなり、鉄(II)の低スピン(LS)状態にあることがわかった。これは、磁化率の測定結果とも一致した。一方、錯体2は、300 K (K0336)にて鉄(II)の高スピン(HS)状態を主成分としながらLS成分が共存するスペクトルを示しており、積分強度比はHS:LS = 88:12であった。磁化率の測定結果は、241 K以上において鉄(II) HS状態の理論値に近いχMT値を示していた。しかしながら、241 Kから300 Kの範囲においても温度上昇に伴い緩やかに磁化率が上昇しており、メスバウアースペクトルの結果より、室温にて一部スピン転移していないLS成分が共存していることが明らかとなった。なお、220 K (D2472)では、 = 0.44 mm s−1、EQ = 0.38 mm s−1のダブレットからなり、鉄(II)LS状態にあることがわかった。これは磁化率の測定結果とも対応しており、メスバウアースペクトルからも錯体2のSCO挙動を明らかにすることができた。

図1. 錯体1, 2のメスバウアースペクトル.

4.その他・特記事項(Others)
謝辞:本研究の一部は、越山科学技術振興財団の研究助成を受けて実施した。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし

6.関連特許(Patent)
なし

©2025 Molecule and Material Synthesis Platform All rights reserved.