利用報告書
課題番号 :S-15-MS-1070
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :曲面π分子上に発生させたカルベンの磁気的性質の解明
Program Title (English) :Study on the magnetic behavior of carbene on a curved- molecule
利用者名(日本語) :高品 直人1), 燒山 佑美1)、櫻井 英博1)、安倍 学2)
Username (English) :N. Takashina1), Y. Yakiyama1), H. Sakurai1), M. Abe2)
所属名(日本語) :1) 大阪大学大学院工学研究科, 2) 広島大学大学院理学研究科
Affiliation (English) :1) Graduate School of Engineering, Osaka University, 2) Graduate School of Sciense, Hiroshima University.
1.概要(Summary )
ジアリールカルベンは一般に基底三重項状態を有しており、カルベン炭素周辺の修飾に伴う分子構造の変化により、その電子状態を様々に変化させることが知られている。このことは構造物性化学の観点からだけでなく、反応中間体としての利用や分子磁性材料の構成ユニットへの応用という観点からも非常に興味深い。本研究ではカルベン炭素の周辺環境として曲面共役分子を適用することにより、曲面構造がもたらす特異な電子状態の解明とその機能化を目的とした。今回、曲面π電子系に非局在化した不対電子が磁気的性質にどのように影響するのかを検討すべく、ジアゾ基を導入した曲面π電子スマネン誘導体から光照射によりin situで三重項カルベンを発生させ、そのSQUID測定を行うことを試みた。
2.実験(Experimental)
カルベンは一般に短寿命種であり、発生させた後直ちに測定に移行できるシステムが必要である。今回用いたスマネン誘導体については既に予備ESR測定によりmTHFマトリックス中77 Kにおいて三重項種由来のシグナルを観測することに成功している。そこで本課題では分子科学研究所にて、①Quantum Design製SQUID型磁化測定装置 MPMS-7を用い、極低温領域での温度可変磁化測定を行った。その際にサンプルロッドとして光ファイバーを内蔵した特殊仕様のものを使用し、装置内でサンプルに対し外部高圧水銀ランプからファイバーを通しての光照射を行うことにより、in situで発生させたカルベンを測定することを試みた。②光照射により生じるカルベンの寿命、及び一定の光強度に対しカルベンを発生させるに必要な最低温度を確認するためにBruker製ESR装置 EMX Plusを用いてmTHFマトリックス溶液のESR測定を行った。この際、光照射はESRキャビティーを通して直接行った。
3.結果と考察(Results and Discussion)
磁化測定ではサンプル溶液をカプセルに入れ、370 nmバンドカットフィルターを介し5 分間光照射 (高圧水銀ランプ使用) した後に5 Kから50 Kまで昇温することで行った。しかし磁化の変化が測定領域においてほとんど観測されなかったことから、今回用いた測定条件で可能な光照射強度・時間では目的の三重項カルベンが発生していないことが示唆された。そこで三重項カルベン発生が飽和するに十分な光照射時間と温度条件を決定するために、ある一定位置からサンプルに当たる光量を光量計にて確認した上で、2 Kから100 Kで時間を変化させながら脱気封管サンプルに対し光照射を行い、その後ESRスペクトル測定を行った。その結果、マトリックス成分の光分解物に由来するシグナルに加えいくつかの微少なシグナルが観測されたが、過去に得られた三重項種とはg値が異なることから、別のラジカル種が生じたと考えられる。これはおそらく前駆体であるジアゾ化合物の不安定性によるものであり、今後常に低温に保つ、完全に遮光するなどのより厳密なサンプル取り扱いが必要である。それでもなお今回得られた結果は、本研究を遂行し、新たな機能性分子を創出していく上で必要不可欠な知見を提供した点で大きな意義を持つ。
4.その他・特記事項(Others)
本研究においては、分子科学研究所 藤原 基靖 博士に多大なるサポートと数多くの助言を頂いた。この場を借りて心よりお礼申し上げます。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) N. Takashina, M. Abe, S. Higashibayashi, Y. Yakiyama, H. Sakurai, IKCOC-13, 平成27年11月12日.
(2) ○高品 直人, 安倍 学, 櫻井 英博, 第5回CSJ化学フェスタ, 平成27年10月15日.
(3) 高品 直人, 安倍 学, 東林 修平, 燒山 佑美, 櫻井 英博, 日本化学会第96春季年会, 平成28年3月24日.
6.関連特許(Patent)
なし。







