利用報告書

有機ケイ素化合物の励起状態に関する研究
辻 勇人1)
1) 神奈川大学理学部化学科

課題番号 :S-16-MS-0034
利用形態 :共同利用
利用課題名(日本語) :有機ケイ素化合物の励起状態に関する研究
Program Title (English) :Investigation on the excited states of carbosilane compounds
利用者名(日本語) :辻 勇人1)
Username (English) :Hayato Tsuji1)
所属名(日本語) :1) 神奈川大学理学部化学科
Affiliation (English) :1) Kanagawa University

1.概要(Summary )
ケイ素が鎖状に連なったポリシランは、Si-Si σ結合電子の非局在化効果(σ共役)に由来して、紫外可視領域に吸収・発光を示す。鎖長が短いメチル置換ポリシラン(Me3Si(SiMe2)nSiMe3)では、Stokesシフトが大きくブロードな蛍光を与えることが実験から知られている。これに対し、利用者らが開発した、ケイ素鎖の立体配座がantiに固定されたペンタシラン(図1右)は、鎖長が短いにも関わらず小さなStokesシフトとシャープな蛍光を与える。このような、ポリシランの発光の鎖長・構造依存性を理解するために、メチル置換ポリシランとanti-ペンタシランの励起状態の分子構造,励起および発光エネルギーを計算した。
2.理論計算(Theoretical)
基底状態はB3LYP/6-311G(d)で構造最適化を行い、垂直励起エネルギー(光吸収)はTD- PBE0/6-311G(d)で計算した。励起状態の構造最適化は、TD- PBE0/6-311G(d)による系統的な構造探索を実施し、最安定構造における発光エネルギー(蛍光発光)の計算を行った。量子化学計算はナノプラットフォーム協力研究、大規模量子化学計算、江原Gの計算クラスターを利用した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
図1左に理論計算による直鎖ポリシランの吸収・発光スペクトルを示す。Si4Me10, Si5Me12, Si6Me14全てにおいて、実験を再現する大きなストークスシフトが計算から得られた。いずれの分子でも、Si-Si結合の一つが基底状態の2.38Åから励起状態では2.62~2.65Åまで伸張していた(図2)。このような局在化した励起状態が大きなストークスシフトの要因であることが理論的にも示された。
一方、anti-ペンタシランでは、小さいStokesシフトが得られ(図1右)、実験を再現した。励起状態では、メチル置換ポリシランのように特定の結合のみが伸張した構造ではなく、構造変化が分子全体に広がっていることがわかり、これが小さいStokesシフトの原因であると考えられる。

図1  Si4Me10, Si5Me12, Si6Me14(左)とanti-ペンタシラン(右)の吸収(青)と発光(赤)

図2 直鎖ポリシランの励起状態における構造変化(顕著に長い結合を赤で示す)。ヘキサシラン(右2つ)では、エネルギー的に近い2つの安定構造が得られた。

4.その他・特記事項(Others)
なし
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし
6.関連特許(Patent)
なし

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