利用報告書

有機伝導体TMTTF系の構造と物性研究
中村敏和1), 澤博2)(1) 分子科学研究所, 2) 名古屋大学大学院工学研究科)

課題番号 :S-20-MS-1044
利用形態 :施設利用
利用課題名(日本語) :有機伝導体TMTTF系の構造と物性研究
Program Title (English) :Study on the structure and physical properties of the organic conductor TMTTF system
利用者名(日本語) :中村敏和1), 澤博2)
Username (English) :T. Nakamura1), H. Sawa2)
所属名(日本語) :1) 分子科学研究所, 2) 名古屋大学大学院工学研究科
Affiliation (English) :1) Institute for Molecular Science, 2) Grad. Sch. Eng., Nagoya Univ.

1.概要(Summary )
最近,中村により新規な有機伝導体が数多く開発された.なかでも,(TMTTF)(NbOF4)は,無限の陰イオン鎖を持つTMTTF+1価の新規一次元電荷移動塩である.開殻系で分子間相互作用を持つ例は我々が知る限り無い.TMTTF1+を含む塩は例が少なく,極めて特異な構造と電荷状態を持つ.この系の磁性,スピンダイナミックスを構造研究と合わせて推進する.本課題では,分子研ではおもに定常法 ESR と SQUID による詳細な温度変化測定を行い,名大では構造研究を行う.これらを網羅的に行うことで,系の低温電子状態と構造との関連を理解することを目的としている.
X-band ESRにより,TMTTF 系のESR パラメーター(信号強度,線幅,g値)の詳細な温度変化を測定する. ESR強度はスピンキャリア数に比例するので キャリア生成の時間依存性が理解出来る.また,ESR 線幅はダイナミックスに起因しており,系の電子状態の理解に役立つ.ESR共鳴磁場はラジカル種の波動関数の対称性を反映しており,スピンの起源に迫ることが出来る.詳細なESR強度ならびにESR線幅の温度依存性を計測することにより,キャリアの遍歴性や電子状態変化,ならびに次元性に関して言及することが可能となる.磁性に関しては SQUID測定を行いESRで観測している信号との整合性を確かめる.

2.実験(Experimental)
ESR測定は分子科学研究所機器センター保有のBruker E500分光器を用い,粉末試料ないしは単結晶試料に対して行った.SQUID測定は,分子科学研究所機器センター保有のQuantum Design MPMS-7を用いている.液体ヘリウムは分子科学研究所機器センターから供給・支援されている

3.結果と考察(Results and Discussion)
現状では良質で大きな単結晶試料が得られないため,磁性測定では多結晶試料を用いて測定を行った.TMTTF分子はa軸方向に交替無く積層している.つまり二量体化は起こっていない.この系が極めて良い1次元1/2-filled系である事が分かる.この系の多結晶試料によるESR信号は線幅がやや狭いために,粉末パターンを示し,異方的gテンソルを仮定して解析できる.gテンソルの主値は(TMTTF)2X塩のそれとほぼ同じであるがやや大きい.線幅は60Kまでは温度と共に減少するがそれ以下で増加に転じる.60K以下で磁化率は異常な増大を示す.ESRの積分強度でもSQUID測定でも定量的に同じ振る舞いをするので本質的と考えられる.また,2Kでの磁化曲線はS=2スピン系のような磁化を示し,短距離スピン相関の発達を示唆している.

4.その他・特記事項(Others)
なし

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) T. Nakamura, L. Zhang, S. Kitou, and H. Sawa, Inorg. Chem., Vol. 60(2021)p.p. 5206–5211.
(2) 中村 敏和,張 力東, 鬼頭 俊介, 澤 博, 日本物理学会 第76回年次大会, 2021年3月15日
(3) 張 力東,鬼頭 俊介,片山 尚幸,中村 敏和,澤 博, 日本物理学会 第76回年次大会, 2021年3月12-15日

6.関連特許(Patent)
なし

©2024 Molecule and Material Synthesis Platform All rights reserved.