利用報告書

有機半導体の電子スピン緩和時間計測
鐘本勝一
大阪市立大学大学院理学研究科

課題番号 :S-18-MS-1086
利用形態 :施設利用
利用課題名(日本語) :有機半導体の電子スピン緩和時間計測
Program Title (English) :Measurement of electron spin relaxation time in organic semiconductors
利用者名(日本語) :鐘本勝一
Username (English) :K. Kanemoto
所属名(日本語) :大阪市立大学大学院理学研究科
Affiliation (English) :1) Department of Physics, Osaka City University

1.概要(Summary )
これまで有機半導体は、半導体素子への適用で成功を収めてきたが、最近その新たな物性として磁場効果にも関心が集まっている。また有機半導体が潜在的にもつ長いスピン緩和時間を利用して、スピントロニクス素子への適用を模索した研究もある。この研究では、磁場応答半導体やスピントロニクス素子への適用が想定される有機半導体について、そのスピン緩和時間を実測し、スピン物性を評価することを目的とした。結果として、用いた試料の緩和時間が短いことが原因で、パルス測定における信号が得られなかった。今後さらにESR線幅が狭い系の適用が必要であることがわかった。

2.実験(Experimental)
実験設備は極低温棟のESR装置E680を使用した。
有機半導体で作成したダイオードをベースに、その発生電流を、E680の実験システムで積算することを目標とした。またパルスESR照射の効果も調べた。

3.結果と考察(Results and Discussion)
通常有機素子を薄膜で利用した場合は、ESR信号を与えるほどに十分なスピン量がない場合が多い。そのためESR信号を与えるほどに、細い線幅を与える系を用いることが望ましい。その候補として、ポリアニリンの利用を試みた。特にポリアニリンの利点としては、ドープ量を調整することで電気伝導度やESR線幅が調整できる可能性がある。今回は膜厚を30nmとした試料を用いた。
ドープした有機半導体の代表例はPEDOT-PSSである。はじめにその系のESR測定を行った。その結果、ESR線幅は約10Gであった。パルス測定も行ったが、大きな線幅が原因で信号は得られなかった。
次にポリアニリン系の測定を行った。重要な点として、30nmの膜厚に関わらず信号の観測に成功した(図1)。線幅は約4Gであった。特に数回のデータ積算でも十分な感度で測定が可能で、導電性有機薄膜の性質を調べる系として有用であることがわかった。ただしこの系にも対してパルス測定に取り組んだが、信号は得られなかった。さらに、この試料を170nmにした試料においてもパルス測定を行ったが信号は得られなかった。そのためパルス測定で緩和時間測定を行うには、さらに数倍の試料量を充填した試料を準備する必要があることがわかった。

4.その他・特記事項(Others)
本研究の実験を実施するにあたって、分子科学研究所機器センターの藤原基靖さん、伊木志成子さん、浅田 瑞枝さんに大変お世話になりました。また、本研究の一部は科研費(No.26620207)の支援の基で行われました。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし
6.関連特許(Patent)
なし

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