利用報告書

有機半導体薄膜の精密構造制御と占有準位エネルギー状態観測
折尾 響1), 佐藤晴輝1), 吉田弘幸2,3) (1) 千葉大学大学院融合理工学府, 2) 千葉大学大学院工学研究院, 3) 千葉大学MCRC )

課題番号 :S-20-MS-0012
利用形態 :協力研究
利用課題名  :有機半導体薄膜の精密構造制御と占有準位エネルギー状態観測
Program Title  :Occupied levels of organic semiconductor films with precisely controlled structure
利用者名 :折尾 響1), 佐藤晴輝1), 吉田弘幸2,3)
Username :Hibiki Orio1), Haruki Sato1), Hiroyuki Yoshida2,3)
所属名 :1) 千葉大学大学院融合理工学府, 2) 千葉大学大学院工学研究院, 3) 千葉大学MCRC
Affiliation   :1) Graduate Schoold of Science and Engineering, Chiba University, 2) Graduate School of Engineering, Chiba University, 3) Molecular Chirality Research Center, Chiba University

1.概要(Summary )
 有機半導体は溶液法によって高い結晶性を持つ薄膜が作製できることから、印刷技術により半導体素子を作製する「プリンテッドエレクトロニクス」の実用化に向けた研究が進められている。しかし、溶液法で作製された薄膜の電子状態の研究はほとんどない。例えば、C8-BTBTは、溶液法で高い電界効果移動度が得られる代表的な有機材料である1,2)。しかし、紫外光電子分光法(UPS)による電子状態観測は、電界効果トランジスタ研究の対象である溶液法による高い結晶性をもつ薄膜の測定ではなく、蒸着膜について報告されているだけである3,4,5)。しかもイオン化エネルギーには4.8 eVから5.5 eVと値にばらつきがある。そこで、本研究では、高結晶性膜の得られる溶液法であるブレードコート法を採用し、導電性基板上に作製したC8-BTBT薄膜についてのUPS測定を行った。
2.実験(Experimental)
 UPSでは測定時の試料帯電を防ぐために試料に導電性が必要である。このことから、基板には多結晶のAu薄膜を用い、膜厚が150 nm以下となるようにブレードコートの製膜条件を最適化した。得られた薄膜は、偏光顕微鏡、分子科学研究所のMCP-LEED(OCI BDL800IR-MCP)で結晶サイズと結晶構造を観測した。その後、励起光HeII(エネルギー40.8 eV)を用いてUPS(VG-Scienta DA-30)を測定した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
 図1に作製した薄膜の偏光顕微鏡像とLEED像を示す。ドメインの大きさが2 x 10 mm2の薄膜が得られ、LEED像からは高い結晶性を持つ単一ドメインの薄膜であることが分かった。

 図2に測定した検出器角度±15°の範囲で角度積分したUPSスペクトルを示す。スペクトルの立ち上がりからイオン化エネルギーを5.95 eVと決定した。C8-BTBT分子のイオン化エネルギーは分子配向に依存する4)。既報の値よりも高い値が得られたのは、本研究の薄膜は結晶性が高く、分子配向がそろっているためと考えられる。

4.参考文献(References)
1) H. Ebata et al., J. Am. Chem. Soc. 129, 15732 (2007).
2) H. Minemawari, et al., Nature 475, 523 (2011).
3) H. Koike, et al., Organic Electron. 39, 184 (2016).
4) L. Lyu et al.,J. Chem. Phys. 144, 034701 (2016).
5) L. Lyu, et al., Phys. Chem. Chem. Phys. 19, 1669 (2017).
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし
6.関連特許(Patent)
なし

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