利用報告書

有機無機ペロブスカイト太陽電池材料の価電子エネルギーバンド構造の実測
山中宗一郎1), 中山泰生1)
1) 東京理科大学理工学部

課題番号 :S-16-MS-0054
利用形態 :共同研究
利用課題名(日本語) :有機無機ペロブスカイト太陽電池材料の価電子エネルギーバンド構造の実測
Program Title (English) :Valence band measurements on the perovskite solar cell materials
利用者名(日本語) :山中宗一郎1), 中山泰生1)
Username (English) :S. Yamanaka1), Y. Nakayama1)
所属名(日本語) :1) 東京理科大学理工学部
Affiliation (English) :1) Faculty of Science and Technology, Tokyo University of Science

1.概要(Summary )
本研究課題は,有機無機ペロブスカイト太陽電池の材料として知られる三ヨウ化メチルアンモニウム鉛(Ⅱ)(MAPbI3)の電子機能性を解明するために,この材料の単結晶試料の価電子バンド分散構造を角度分解光電子分光法(ARPES)により実測することを目的としたものである。平成28年度の実施内容としては,目的とする電子物性評価の準備段階として,MAPbI3単結晶試料の表面清浄化プロセスに関する検討,平成29年3月22日から30日にかけて実施した。

2.実験(Experimental)
原料物質であるヨウ化メチルおよび二ヨウ化鉛をジメチルホルムアミドへ溶解させた飽和溶液からの再結晶により数mm立方のMAPbI3単結晶を作製し,これを実験試料とした。試料結晶の「裏」面をサンプルホルダ上に導電性ペーストにより固定し,これをARPES測定装置へ導入した。試料の表面清浄化プロセスとして,金属などの単結晶基板の清浄化に通常用いられるアルゴンイオンスパッタリング,加熱アニーリングに加えて,超高真空環境における結晶の劈開も試みた。結晶の真空劈開にあたっては,結晶の「表」面上に真空対応の熱可塑性樹脂を介してセラミック製の円筒を固定し,これを超高真空中にて破断することで,清浄な劈開面を得た。光電子分光測定は,分子科学研究所において,VG-Scienta社製DA30を用いて行った。

3.結果と考察(Results and Discussion)
図1に,アルゴンイオンスパッタリング,100℃における加熱アニーリングを施したMAPbI3単結晶の,真空劈開前後における光電子スペクトル変化を示す。結合エネルギー-24~-16 eV領域に現れるPb5dピークの変化から,通常の表面清浄化プロセスでは部分的に還元された金属Pbが生じているのに対し,劈開面では大部分のPbが本来のⅡ価の化学状態を保っていることが判る。また,二次電子領域のスペクトル形状より,未劈開試料では仕事関数が4.4(3) eVであるのに対し,劈開後は仕事関数が4.28(5) eVに低下する。また,劈開後の価電子帯上端の結合エネルギーは概ね-2 eVであり,MAPbI3が極めてn型性の強い材料であることが確認された。

図1:MAPbI3単結晶の真空劈開前後での(左)価電子領域および(右)二次電子領域の光電子スペクトル変化。

4.その他・特記事項(Others)
なし。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし。

6.関連特許(Patent)
なし。

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