利用報告書

有機電荷移動錯体の圧力下・フィリング制御下での電子相転移の探索と機構解明
伊東 裕1), 田中文也1)
1) 名古屋大学大学院工学研究科応用物理学専攻

課題番号 :S-19-MS-0008
利用形態 :共同研究
利用課題名(日本語) :有機電荷移動錯体の圧力下・フィリング制御下での電子相転移の探索と機構解明
Program Title (English) :Electronic phase transitions of organic charge transfer salts under pressure and band-filling control
利用者名(日本語) :伊東 裕1), 田中文也1)
Username (English) :H. Ito1), F. Tanaka1)
所属名(日本語) :1) 名古屋大学大学院工学研究科応用物理学専攻
Affiliation (English) :1) Department of Applied Physics, Nagoya University

1.概要(Summary )
κ型BEDT-TTF(ET)塩をはじめとする電荷移動錯体の示す金属絶縁体転移・超伝導転移について、山本教授との共同研究により、極低温領域までの電気抵抗・磁気抵抗測定ことにより、超伝導転移を探索するとともに、磁気抵抗から電子状態の変化を解明する。この測定を常圧・圧力下だけでなく、イオン液体を用いて平滑な薄片試料表面に形成した図1のような電気二重層トランジスタによる電荷注入により、圧力・フィリング同時制御による超伝導探索と電子相転移のメカニズムを解明することを目指している。
2.実験(Experimental)
本年度は、まず昨年度に希釈冷凍機を用いた測定により、極低温で抵抗が上昇する傾向をしめした単分子磁石イオンCo(pdms)2を含むBEDO-TTF(BO)塩における抵抗上昇の起源について磁気抵抗による詳しい測定を行った。また、分子研山本研究室の設備を用いた電気化学合成法によりα-(ET)2I3の薄片試料を作製し、電気二重層トランジスタを用いた電荷注入下で金属絶縁体転移の制御を試みた。
3.結果と考察(Results and Discussion)
 単分子磁石イオンCo(pdms)2 とBOからなる2種類の塩(BO)3[Co(pdms)2](MeCN)(H2O)2 (以下BO3) および(BO)4[Co(pdms)2]•3H2O (以下BO4) について、磁気抵抗を測定した。BO3では負の磁気抵抗が2次元面に垂直な磁場下で現れ、2次元面に平行な磁場下では現れなかったため、抵抗上昇は2次元弱局在効果の現れとして理解できた。これに対し、BO4では両方向ともに負の磁気抵抗を示し、単分子磁石とπ電子とのd-相互作用を示唆する結果を得た。
 α-(ET)2I3は、常圧135 K以下で金属から絶縁体に転移し、分子の積層方向に垂直な方向のストライプ型電荷秩序を示す。この電荷秩序転移について、電気二重層トランジスタによるゲート電圧印加下で測定を行った。その結果、図2に示すように正のゲート電圧を印加した場合に電気抵抗の温度依存性が低温側にシフトし、電荷秩序相への転移温度が低下して金属的な領域が広がることが分かった。
 次年度は、単結晶を張り付けた基板を折り曲げることによって加えた歪効果を併用し、極低温での測定により金属絶縁体転移の制御と超伝導転移の探索を予定している。

図1.電気二重層    図2.α-(ET)2I3のゲート電圧
トランジスタ     下電気抵抗の温度依存性                       

4.その他・特記事項(Others)
なし
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
吉名真志,伊東 裕,蒲江,竹延大志,沈勇兵,山下正廣, 日本物理学会2019年秋季大会, 2019年9月12日
6.関連特許(Patent)
なし

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