利用報告書

有機-無機複合磁性体の物性評価
Dmitrii SMIRNYKH, 土屋直人, 石貫達也, 泉雄大, 廣野恵大,井上克也(広島大学大学院先進理工系科学研究科)

課題番号 :S-20-MS-1029
利用形態 :施設利用
利用課題名(日本語) :有機-無機複合磁性体の物性評価
Program Title (English) :Physical Properties of Organic-Inorganic Hybrid Asymmetric Materials
利用者名(日本語) :Dmitrii SMIRNYKH1), 土屋直人1), 石貫達也1), 泉雄大1), 廣野恵大1),井上克也1)
Username (English) :Dmitrii Smirnykh1), Naoto Tsuchiya1), Tatsuya Ishinuki1), Yuta Izumi1), Keita Hirono1) ,Katsuya Inoue1)
所属名(日本語) :1) 広島大学大学院先進理工系科学研究科
Affiliation (English) :1) Graduate School of Advanced Science and Engineering, Hiroshima University

1.概要(Summary)
 近年、空間反転対称性の破れに起因した物性が注目されている。その中で、本研究はマルチフェロイクスとキラル磁性の2種類に着目している。マルチフェロイクスとは、強磁性・強誘電性・強弾性などの強的秩序うち2つ以上に相関がある物質をさす。当研究室では強弾性と傾角反強磁性を示す2種類の化合物の合成に成功し、これらの物性を調査した。結果、強弾性と磁化が結合した磁気挙動の発現が示唆された。
 キラル磁性体とは、キラルな構造を有する磁性体をさす。CrNb3S6に代表されるキラル磁性体では、らせん磁気構造が周期的にほどけた強磁性的キラルソリトン格子を形成することが知られている。我々の研究グループでは、キラルな結晶構造をもつ [NH4][Mn(HCOO)3]において反強磁性的キラルソリトン格子の形成が示唆されている。今回は、類似した構造をもつ[NH4][Co(HCOO)3]の物性を調査した。

2.実験(Experimental)
 今年度は、マルチフェロイクスとキラル磁性体の2つの物性に着目し実験を行った。それぞれ有機無機ペロブスカイト型化合物R2FeCl4(R:有機アンモニウムカチオン)と、アンモニウムイオンとギ酸、遷移金属イオン(M2+)からなる[NH4][M2+(HCOO)3]を対象にした。測定は磁気測定と電子スピン共鳴(ESR)測定を粉末または単結晶試料を用いて行った。磁気測定にはSQUID型磁化測定装置(Quantum Design社製 MPMS-7,MPMS-XL7)を、ESR測定にはBruker 社製E500を使用した。

3.結果と考察(Results and Discussion)
3.1 マルチフェロイクス
 強弾性を示す(2-phenylethylammonium)2FeCl4(1塩)は磁場中で冷やすことで、磁化曲線が縦方向にシフトする現象が観測されている。今年度は1塩が示す磁化曲線シフトの性質を明らかにするために、シフトが消失する温度を見積もった。シフトが消失するときの温度とは、ゼロ磁場冷却後の温度依存性と磁場中冷却後の温度依存性が重なるときの温度である。測定磁場を変化させ、このときの温度を追跡した。粉末、単結晶試料ともに、測定磁場の増加に伴い消失する温度が低温側にシフトしていた。しかし、粉末と単結晶試料では消失する温度が大きく異なっていた。現在、温度が異なる理由を考察中である。
 近年、新たに合成に成功した[2-(1-cyclohexenyl)ethylammonium]2FeCl4(2塩)は2度、強弾性相転移を起こす化合物である。粉末試料を用いた磁化の温度依存性測定の結果、90 Kに磁気転移を起こすことが明らかとなった(図1)。単結晶試料を用いた磁化の磁場依存性から残留磁化0.037 μB、保磁力6700 Oeの磁気ヒステリシスを示した。このことから、2塩は磁気転移点温度以下で傾角反強磁性を示すことが明らかとなった。また、強弾性を示す2塩は1塩と同様、磁場中冷却を行うことで磁化曲線がシフトした。
3.2 キラル磁性体
 M2+ = Co2+を導入した[NH4][Co(HCOO)3]の結果を報告する。粉末状態の磁化の温度依存性測定から、約5 Kと10 Kに磁気転移をもつことが明らかとなった(図2)。高温側の磁気転移は常磁性状態から(傾角)反強磁性への相転移であると考えられる。低温側の相転移がどのような転移であるかを調べるためにESR測定を行った。結果、Co2+由来のシグナルが観測された(図3)。しかし、現在のところESR測定からは磁気構造の変化に伴うシグナルの変化は観測されていない。そこで、次に交流磁化率の温度依存性測定を行うことで二つの磁気転移の性質を探ることにした。結果、直流磁場測定から観測された転移温度に対応した温度に、実部・虚部ともにピークが観測された。今後、測定磁場を変えて測定を行う予定である。

4.その他・特記事項(Others)
なし。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 土屋直人, 石貫達也, 青木沙耶, 中山祐輝, 西原禎文, 井上克也, 日本化学会秋季事業第10回CSJ化学フェスタ2020, 令和2年10月20日

6.関連特許(Patent)
なし。

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