利用報告書
課題番号 :S-16-NI-04
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :水熱合成ZnOナノロッドの構造制御に関する研究
Program Title (English) :Growth-direction of ZnO nanorods synthesized by hydrothermal method
利用者名(日本語) :市川 洋1), 立山浩生1)
Username (English) :Y. Ichikawa1), H. Tateyama1)
所属名(日本語) :1) 名古屋工業大学大学院工学研究科
Affiliation (English) :1) Graduate School of Engineering, Nagoya Institute of Technology
1.概要(Summary )
フォースセンサーをはじめとするセンサー応用を目論み、水熱合成による酸化亜鉛(ZnO)ナノロッドの成長制御に関する研究を行ってきた。ZnOナノロッドが、サファイア単結晶基板の面方位よって、配向して成長する方向が制御できることがわかってきた。特に、膜厚100nm程度の種結晶層を形成したR面サファイア上には、X字状に交差してナノロッドが成長することがわかった。さらにフォースセンシングの感度を高めるため、アスペクト比(長さ:直径)の制御に向けて、平成27年度は、水熱合成法による節目の無いナノロッドの数μの長尺化が可能であることを示した。しかし、本水熱合成は、水溶液の温度が90℃程度の1気圧下での反応を使っており、オートクレーブによる実験に比べ反応温度も低く、“静かな”環境でナノロッドは合成されるが、ビーカーやフラスコの反応容器内の水溶液中には熱対流が発生する。この対流と基板位置の関係は重要で、対流によって運ばれるナノロッド成長に不要な生成物を基板に堆積しないような基板の位置制御が重要になってくる。従って、熱対流の小さい、より低温での反応が望まれ、今回は20℃程度の室温でのナノロッド水熱合成実験を行った。
2.実験(Experimental)
ZnOナノロッドの作製は、水熱合成法で行った。基板にはC面、R面サファイア単結晶(厚み0.3mm)、溶融石英(厚み0.5mm)を用いた。基板上に種結晶層としてZnO薄膜を高周波マグネトロンスパッタ法で200nm程度堆積させた(基板加熱温度600℃)。ZnOナノロッド作製の水熱合成実験は、0.1M硝酸亜鉛((Zn(NO)3)・6H2O)水溶液に、1.5M水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を加えたpH13程度の強アルカリ性混合溶液と、0.1M硝酸亜鉛水溶液に0.1Mヘキサメチレンテトラミン(HMT)水溶液を加えたpH6.5程度の弱酸性混合水溶液を用いて行った。テフロン製三角フラスコに混合水溶液を注ぎ、種結晶層が形成された基板をテフロン製治具に固定して溶液中に浸漬した。フラスコを実験室の温度・気流の安定した場所に設置して実験を行った。作製したZnO薄膜種結晶層の表面形状は原子間力顕微鏡(AFM,日本電子製JSPM-5200TM)、ナノロッドの形状は走査型電子顕微鏡(SEM,日本電子製JSM5600)により観察、評価した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
水熱合成実験は、空調により20℃に制御された実験室で行った。通常のホットプレートを用いて90℃に加熱して行う水熱合成法からは、90℃、2hの反応で長さ1µmのZnOナノロッドが得られる。室温から三角フラスコを加熱すると、65℃付近で溶液は透明から白濁し、白濁した溶液は、徐々に透明になっていくことが確認される。過去の実験によると、この白濁で水熱反応が開始し、ZnOナノロッドの成長が始まるが、90℃に達して以降は、ほとんどナノロッドは成長しないことも確認済みである。しかしながら、今回の室温での水熱合成実験では、水溶液の白濁は観られず、終始透明の溶液に試料を浸漬させた状態であった。
Fig.1は、C面およびR面サファイア基板上のZnO薄膜上に、水酸化ナトリウムを使った強アルカリ水溶液中で成長したZnOナノロッドのSEM画像である。このとき、基板はZnO薄膜面を上向きに設置し、反応フラスコは、C面サファイア基板については48h、R面サファイア基板上にいついては12h静置している。SEM画像から、室温の水溶液でも1)配向性が高く、密度の高いナノロッドが得られること、2)ナノロッド上に余計な付着物などが観られず、無対流の好影響が発揮されたことがわかった。ただ、ナノロッド長は4.2m(C面サファイア基板)、2.0m(R面サファイア基板)で成長速度は、90℃での実験に比べると1/10以下とかなり遅いことがわかった。また、Fig.1はZnO薄膜面を上向きに溶液内に設置した場合であるが、下向きに設置した場合も、ほぼ同様な成長の様子が確認された。そして、ロッドの先端はいずれも尖っていることがわかった。
そこで、溶液内での基板の位置とZnOナノロッドの成長の様子を調べた。Fig.2には、フラスコ底面に対してC面サファイア基板面を垂直に立てて設置した場合(強アルカリ水溶液中,溶液温度20℃,静置時間72h)に得られたZnOナノロッドのSEM画像が示されている。ほぼ基板面に垂直配向したZnOナノロッド群と画像では左方向に横倒しに成長するナノロッドが混在していることがわかる。横倒しナノロッドの成長方向が、フラスコ底面を指していることから、これらのナノロッドは重力方向に成長したものと考えられるが、混在の原因は不明である。さらに、フラスコ底面に対して、基板(ZnO薄膜)面を平行に配置した場合(Fig.1)に比べて、成長したZnOナノロッドは細いことがわかった。
一方、ヘキサメチレンテトラミンを用いた水溶液では、いずれの基板、基板の設置位置に対しても、ZnOナノロッドは、成長しないことがわかった。
今回の実験で、室温の水熱合成でも良好な配向性ZnOナノロッドを得ることができることがわかった。しかも熱対流の無さから、加熱した水熱合成では観られた付着物は観られず、より簡便な合成プロセスであるといえる。しかしながら、これは強アルカリ性が、硝酸亜鉛の分解を室温でも促進していることの現れで、一般的に電子デバイスではナトリウム(Na)の含有は嫌われることから、水酸化ナトリウムを用いない水熱合成の検討が必要と考えられる。
4.その他・特記事項(Others)
なし
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) M. Honda, R. Okumura and Y. Ichikawa, Jpn. J. Appl. Phys., 55, 080301 (2016),平成28年6月30日.
(2) Q.-Y Zhang, M. Honda and Y. Ichikawa, The 9th International symposium on photonics and optoelectronics (SOPO2016) , 平成28年8月28日.
(3) Q.-Y Zhang, M. Honda and Y. Ichikawa, The 9th International symposium on photonics and optoelectronics (SOPO2016),平成28年8月28日.
(4) K. Iwao, M. Honda and Y. Ichikawa, The 5th Global Conference on Materials Science and Engineering, 平成28年11月10日.
(5) F. Tokuda, M. Honda and Y. Ichikawa, International Conference on Nanoscience and Nanotechnology 2017, 平成29年2月25日.
(6) H. Tateyama, Q.-Y Zhang and Y. Ichikawa, International Conference on Nanoscience and Nanotechnology 2017, 平成29年2月25日.
(7) 張栖岩, 本田光裕,市川洋,第64回応用物理学会春季学術講演会, 平成29年3月16日.
6.関連特許(Patent)
なし