利用報告書

無水有機プロトン伝導体コハク酸イミダゾリウムの結晶破砕による構造転移消失挙動の研究
出倉駿(東京大学物性研究所)

課題番号 :S-20-MS-0039
利用形態 :協力研究
利用課題名(日本語) :無水有機プロトン伝導体コハク酸イミダゾリウムの結晶破砕による構造転移消失挙動の研究
Program Title (English) :Study on the disappearance of structural transition in anhydrous organic proton conductor imidazolium hydrogen succinate crystal by mechanical grinding
利用者名(日本語) :出倉駿
Username (English) :S. Dekura
所属名(日本語) :東京大学物性研究所
Affiliation (English) :ISSP, The University of Tokyo

1.概要(Summary)
 次世代型燃料電池の固体電解質候補物質として注目されている「無水プロトン伝導体」の一種であるイミダゾリウムーコハク酸塩(Im-Suc)単結晶は、約80 °Cでイミダゾリウム分子の配向無秩序化を伴う構造転移を示し、これによりプロトン伝導度が大きく促進されるが、すりつぶした粉末では構造転移を示さない一方でプロトン伝導挙動は単結晶とは大きく異なる。そこで粉末のIm-Sucに対し温度可変粉末X線回折(PXRD)測定を行うことで構造の観点から相挙動を調査した。
 詳細なRietveld解析の結果、結晶をすりつぶすことで多数の欠陥が導入されるとともに部分的に高温構造が析出し、さらに有意に格子が収縮しており、これらが構造転移を抑制したと考えられる。この構造転移に深く関わる分子配向無秩序化も同様に変調されていると期待されることから、結晶のすりつぶしによる分子運動性制御の新たな可能性が示され、基礎学理的知見のみならず、全固体燃料電池への応用に向けた物質設計指針確立にもつながると考えられ、大変意義深い。

2.実験(Experimental)
使用設備:SPring-8 BL02B2
温度: 30–130 °C (303–403 K)
試料: Im-Suc塩粉末、白色

3.結果と考察(Results and Discussion)
 Im-Suc塩の単結晶をすりつぶした粉末のPXRD測定を行い、単結晶で得られた室温及び相転移後の高温構造から予想されるシミュレーションパターンと比較した結果、室温におけるIm-Suc粉末のパターンは部分的に高温構造を含んでいることが明らかになった。一方、この粉末の温度を室温から融点近くの130 °Cまで変化させても構造転移を示すパターンの変化は観測されず、昇温とともに高温構造の割合が僅かに増加するのみであった。Rietveld解析の結果、結晶すりつぶしによって格子が収縮しており、これに加えて多数の欠陥が導入されたことも影響して構造転移が抑制されたと考えられる。この結果は構造転移に伴って生じるはずの分子配向無秩序化も抑制されたことを示唆しており、結晶のすりつぶしによる分子運動性制御やそれによるプロトン伝導度制御の可能性を示す重要な成果である。実際に、IR測定の結果から分子運動性も実際に変調されていることが示唆されており、非常に興味深い結果が得られている。

4.その他・特記事項(Others)
本研究は日本学術振興会の科学研究費補助金(若手研究 JP20K15240)の支援により実施された。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 出倉駿 他, 日本物理学会第76回年次大会, 令和3年3月14日

6.関連特許(Patent)
なし。

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