利用報告書
課題番号 :S-16-MS-0032
利用形態 :協力研究
利用課題名(日本語) :環状フルオロアルキル骨格を有する含フッ素透明性ポリマーの創製と分子構造解析
Program Title (English) :Synthesis and structural characterization of fluorine-containing transparence
polymers with a cyclic fluoroalkyl group
利用者名(日本語) :福元 博基1), 西村 勝之2)
Username (English) :H. Fukumoto1), K. Nishimura2)
所属名(日本語) :1) 茨城大学 工学部 生体分子機能工学科, 2)分子科学研究所
Affiliation (English) :1) Ibaraki University, 2) Institute for molecular science
1.概要(Summary )
従来の含フッ素高分子は、テフロンに代表される耐熱性材料として利用されてきたが、近年では、他の元素に見られないフッ素特異性を巧みに利用して、透明性樹脂、電子デバイスなどの機能性材料の開発にシフトしつつある。しかし、フッ素骨格源の種類は限られており、また一般的に合成経路が長いため、高機能性含フッ素高分子の開発は遅れているのが現状である。
申請者らは、既存の手法より簡便でかつ安価なフッ素高透明性樹脂の創成を目的として、半導体材料の洗浄用ガスとして入手容易な環状フッ素化合物、オクタフルオロシクロペンテン(OFCP)を出発原料とするモノマーならびに新規フッ素高透明性樹脂の合成を行っている。これらの新規合成した同樹脂は有機溶媒に不溶なため、その分子構造を初めとする諸情報を原子分解能で得られる解析手法は極めて限られている。
本研究では、固体核磁気共鳴(NMR)法を用いて同新規フッ素高透明性樹脂の化学組成の同定と分子構造および状態解析を試みた。
2.実験(Experimental)
申請者らが、含フッ素ポリカーボネート、およびポリエーテルの合成および単離を行った。これらの合成した新規フッ素高透明性樹脂、およびそれらの原材料分子に関して、固体NMR測定を行った。固体NMR測定は、Bruker社製Avance 600 NMR分光器、および2.5mm magic angle spinning (MAS) 1H-X二重共鳴プローブを用いて行って20 kHzのMAS条件下で行った。測定は、交差分極法(CPMAS)、およびCPMASにdipolar dephasing法を組み合わせた手法を用いて、1次元スペクトルの測定を行った。試料温度は、MASによる発熱を考慮し、温度調節器により実試料温度が25℃となるように調整を行った。
3.結果と考察(Results and Discussion)
原料分子でのCPMAS スペクトルでは、先鋭な信号が得られたため、同分子が極めて均一性の高い分子構造を取ることが示唆された。一方、含フッ素樹脂に関しては、合成高分子一般に観測されるような広幅な信号が観測され、十分なスペクトル感度を得るために数万回の積算を行った。このような低感度のため、2次元相関NMRの実施は困難であった。代わりに、原料分子、および新規フッ素高透明性樹脂各々に関して、CPMASにdipolar dephasing法を適用し、1H核と直接化学結合している13C核の信号を消失させ、炭素種を同定した。さらに、化学シフト値に基づき定性的な13C信号の帰属を行い、ほぼ全ての信号帰属を達成した。本試料において、19F核が直接化学結合している13C核周辺は1H核が存在しないため、CPMASでは1Hからの分極移動が生じ難くい。さらに19F核は大きい核磁気回転比を持つため、13C核との強い異種核間磁気双極子相互作用が存在するが、本装置では、19F核のデカップリングができないため、13C信号は広幅化して消失していると考えられ、19F核周辺の13C信号は観測されなかった。
これらの一連の固体NMRの解析から、目的とした含フッ素樹脂の合成に成功していることが確認された。
4.その他・特記事項(Others)
マジック核試料回転(MAS):静磁場から54.7°傾けた軸の周りで試料を高速回転させることにより、各種異方的相互作用を消去する手法。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
片岡 頌治、山田 桂輔、福元 博基、久保田 俊夫、第65回高分子学会年次大会、1Pg019、平成28年5月25日.
6.関連特許(Patent)
なし