利用報告書

生体分子内包した不織布作製に利用可能な新規架橋性高分子の開発
谷川 雄治、水野 稔久
名古屋工業大学大学院工学研究科

課題番号 :S-18-NM-0039
利用形態 :技術代行
利用課題名(日本語) :生体分子内包した不織布作製に利用可能な新規架橋性高分子の開発
Program Title (English) :Development of new network polymers, applicable to construction of the
biomacromolecules-encapsulated fibermats
利用者名(日本語) :谷川 雄治、水野 稔久
Username (English) :Yuji Tanigawa, Toshihisa Mizuno
所属名(日本語) : 名古屋工業大学大学院工学研究科
Affiliation (English) :Graduate School of Engineering, Nagoya Institute of Technology

1.概要(Summary)
蛋白質などの生体高分子をナノ繊維内部に内包固定化した不織布の開発は、新規酵素固定化法としての利用や、高機能細胞培養材料開発への応用が期待され興味深い。これらの不織布はいずれも水系溶媒に浸漬して利用することが想定されるため、水に不溶な高分子を不織布のベース材料として選択しなくてはいけないが、一方で不織布作製過程において生体高分子を変性失活させてはいけない。そこで最近我々のグループでは、後架橋可能な水溶性高分子を架橋して得られる架橋高分子を不織布のベース材料とし、この架橋反応を電界紡糸の過程で進めつつ紡糸することで、蛋白質を変性させることなく繊維内部に内包固定化可能であることを示してきた(Langmuir, 32, 221-229 (2016))。これを可能とする後架橋可能な水溶性高分子として、アクリルアミドとジアセトンアクリルアミド共重合体であるpoly(AA/DAAM)、これに対する二官能性の架橋剤としてアジピン酸ジヒドラジド(ADH)を用いる方法もこれまでに報告している(Polymer, 132, 342-352 (2017))。本研究では、このポリアクリルアミド系高分子に、さらにもう一つ別の反応点を含んだ、アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、ペンチニルアクリルアミドからなる共重合体poly(AA/DAAM/PAM)の合成と、それを用いた蛋白質内包ゲルの作製まで検討した。
2.実験(Experimental)
【利用した主な装置】
 サイズ排除クロマトグラフィー装置
【実験方法】
アクリルアミド(AA)、ジアセトンアクリルアミド(DAAM)は市販品を再結晶したものを用いた。トリメチルシリル(TMS)基で保護されたペンチニルアクリルアミド(PAM)の合成は、(5-クロロ-1-ペンチニル)トリメチルシランを出発原料とし、ガブリエル合成によるアミノ基の導入とそれに続くアクリル酸クロリドとの縮合により行った。高分子合成はRAFT重合により行い、合成後テトラブチルアンモニウムフルオライドを用いてTMS基の脱保護は行った。合成された高分子の数平均分子分子量、分子量分散度の決定には、ソフトマテリアルライン所属のサイズ排除クロマトグラフィー(GPC)装置を利用した。ゲル内部に固定化する蛋白質には、蛍光発色挙動により変性状態の評価が容易な緑色蛍光蛋白質を用いた。
3.結果と考察(Results and Discussion)
合成されたpoly(AA/DAAM/PAM)の化学構造を、Fig. 1に示した。1H-NMRにより、それぞれのモノマー組成比はAA:DAAM:PAM = 8:1:1 であることが分かった。GPC分析により、数平均分子量が54 kDa、分子量分散度が1.32であることが分かった。

Fig. 1 Molecular structure of poly(AA/DAAM/PAM)
 poly(AA/DAAM/PAM)+二官能性架橋剤で得られるゲル中へGFPの固定化と、GFPの変性度合いの評価を行った。二官能性架橋剤には、 ADHとジエチレングリコールビスアジド(DEGA)を用いた(Fig. 2)。

Fig. 2 Molecular structure of ADH and DEGA

Fig.3にGFPを内包したゲルの写真、Fig.4に内包固定化されたGFPの蛍光スペクトルを示した。まずFig.3の結果より、GFPを添加しても元々のpoly(AA/DAAM/PAM)+二官能性架橋剤で得られるゲルの性質は維持されており、蛋白質共存下でも、poly(AA/DAAM/PAM)と二官能性架橋剤後の間の架橋反応は大きな影響を受けないことが明らかとなった。またFig.4から、各ゲル中に内包固定化されたGFPが、溶液中に分散された場合と蛍光最大波長が大きく変化しなかったため、変性させることなく蛋白質の内包固定化が可能であることが明らかとなった。研究期間の都合で、この後の電界紡糸法による不織布作製までは検討ができなかったが、poly(AA/DAAM)にADHを加えて作製される不織布と同様な性質を発揮しており、不織布作製は十分可能と期待される。

Fig. 3 GFP-encapsulated Hydrogels of poly(AA/DAAM /PAM) with (a) ADH and (B) DEGA

Fig.4 Fluorescence spectra of GFP-encapsulated Hydrogels (blue line) of poly(AA/DAAM /PAM) with (a) ADH and (B) DEGA. Orange line is a control when GFP is in a buffer.

4.その他・特記事項(Others)
サイズ排除クロマトグラフィー(GPC)装置を用いた数平均分子分子量、分子量分散度の決定では、依頼測定という形でNIMS所属の李潔博士にご協力いただいた。GPC分析において特殊な溶媒選択が分析の成否において重要であったが、こちらに関する適切なアドバイスを頂くことができた。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし
6.関連特許(Patent)
なし

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