課題番号 ：S-15-KU-0006
利用形態 ：機器利用
利用課題名（日本語） ：生体膜の金属錯体による機能化
Program Title (English) ：Functionalization of membrane with metal complexes
利用者名（日本語） ：越山友美、大場正昭
Username (English) ：Tomomi Koshiyama, Masaaki Ohba
所属名（日本語） ：九州大学大学院理学研究院
Affiliation (English) ：Faculty of Science, Kyushu University

１．概要（Summary ）
　生体系の細胞膜では、複数の膜タンパク質の集積化により、異なる化学反応の連動を達成している。このような複数の反応が協同的に進行する化学反応システムの創製は近年注目を集めている。我々は、様々な機能を有する金属錯体の集積化による機能性空間の構築を進めており、集積場として球状の脂質二重膜であるリポソームに着目した。両親媒性脂質からなるリポソームは、膜表面、膜内部や内水相に親水性、疎水性の領域を有するため、それぞれの部位に特異的な物質の導入が可能である。本申請課題では、抗生物質チャネルを利用した内水相における配位高分子の直接合成を検討した。配位高分子は、構成成分の組み合わせにより分子吸着、磁性、発光などの様々な機能・物性を発現する優れた固体材料である。本研究では、希土類金属イオンを用いた蛍光性配位高分子の直接合成と、アニオンセンシング能の評価を行った。

２．実験（Experimental）
　有機配位子に1,3,5-Benzenetricarboxylic acid (H3BTC)、金属イオンに Tb3+ を用いた蛍光性配位高分子Tb(BTC)·6H2O (TbBTC) の内水相における直接合成を行った。まず、凍結融解法により架橋配位子であるH2BTCを内包したリポソームを作成し、次いで、H2BTC内包リポソームに Tb3+とAmB を加えてイオンが透過可能なチャネルを形成させ、この膜透過性チャネルを通してTb3+をリポソーム内水相に流入させた。流入した金属イオンと内包した有機配位子との反応により、内水相において TbBTC を直接合成した。ゼータサイザーゼータ電位・粒子径・分子量測定装置と用いて、反応過程におけるリポソームの粒径サイズを決定した。

３．結果と考察（Results and Discussion）
　BTC3- の内包と AmB の導入はUV-Vis スペクトルで、リポソーム内水相における Tb(BTC) の形成はFT-IRスペクトル、蛍光スペクトル、粉末X線回折およびTEM測定によりそれぞれ確認した。ゼータサイザーによる BTC 内包リポソームとTb(BTC) 内包リポソームの粒径測定により、両サンプルともZ平均 (d nm) は140 nm程度であり、作成過程でリポソームが融合や凝集していないことが示された。TEM観察から、リポソーム内部に約20-30 nmの Tb(BTC) の粒子が形成されていることがわかった。また、Tb(BTC)内包リポソームの機能評価として、F‒ イオンのセンシングを検討したところ、Tb(BTC) の微結晶サンプルに比べて低濃度領域において高感度なセンシング能を示した。以上の結果から、抗生物質チャネルを利用した配位高分子の直接合成法の妥当性と、作成した配位高分子内包リポソームの有用性を示すことができた。

４．その他・特記事項（Others）
なし

５．論文・学会発表（Publication/Presentation）
(1) ○越山友美、波多江達、本庄正幸、淺田紗成、神田奈央、小金丸莉菜、大場 正昭、日本化学会第96春季年会、平成28年3月27日
(2) ○越山友美、ナノ構造・物性－ナノ機能・応用部会合同シンポジウム、平成27年11月28日
(2) ○越山友美、淺田紗成、本庄正幸、小金丸莉菜、大場正昭、第9回バイオ関連化学シンポジウム、平成27年9月11日

６．関連特許（Patent）
なし