利用報告書

異種イオンドープ型シリカメゾ構造体粒子の固体29Si-NMR解析に関する研究
山田 翔太1), 多賀谷 基博1)
1) 国立大学法人 長岡技術科学大学 大学院工学研究科

課題番号                  : S-18-NU-0016

利用形態                  : 技術代行

利用課題名(日本語)       : 異種イオンドープ型シリカメゾ構造体粒子の固体29Si-NMR解析に関する研究Program Title (English)          : Solid-state 29Si-NMR Analysis of Heterogeneous Ion-Doped Silica Mesostructured Particles

利用者名(日本語)      : 山田 翔太1), 多賀谷 基博1)

Username (English)         : S. Yamada1), M. Tagaya1)

所属名(日本語)        : 1) 国立大学法人 長岡技術科学大学 大学院工学研究科

Affiliation (English)           : 1) Graduate School of Engineering, Nagaoka University of Technology

 

 

1.概要(Summary

メソポーラスシリカ膜 (MPS) 表面の親水性の向上のためには、リン酸をシリカ骨格と相互作用させて存在させる方法がある。細孔内はバルク表面と異なる性質を発現することが知られており、水蒸気吸着測定によって細孔内表面の親水性およびリン酸の存在状態を評価できる。

本研究では、新規に合成したリン酸含有メソポーラスシリカ (PMPS) の水蒸気吸着特性を評価し、リン酸の含有状態を考察した。

 

2.実験(Experimental

リン酸含有メソポーラスシリカ膜は、界面活性剤 (P123) を細孔鋳型として使用し、シリカ源にテトラエトキシシラン (TEOS) を使用した。リン酸の添加量は、TEOSに対するリン酸のモル比を0、0.05、0.10、0.15の値で調整した。水蒸気吸着特性の測定のために、基板上へ成膜を行って乾燥・焼成を経て試料を得た。固体29Si-NMR測定のために、同溶液を成膜せずに乾燥・焼成を行った。TEOSに対するリン酸のモル比に対応して試料名を0PMPS、5PMPS、10PMPS、15PMPSとした。試料の評価は、リン酸含有量を蛍光X線装置により、多孔体の構造をX線回折装置と窒素吸脱着測定装置により、水蒸気吸脱着評価をガス吸着型比表面積・ナノ細孔径評価装置 (マイクロトラック・ベル㈱、Belsorp-max) により、シリカネットワークの状態を固体29Si-NMRとFT-IRにより、評価した。なお、固体NMR装置はBruker AVANCE300Wbsを用いた。

 

 

3.結果と考察(Results and Discussion

XRF結果より、合成した試料において、仕込み量に合致したP/Siモル比が観測された。

XRD結果より、細孔構造に起因する回折ピーク強度がリン酸添加量の増加と共に低下した。細孔の周期性が低下していると考えられた。

窒素吸脱着測定結果からIV型の等温線が観測され、メソ細孔の存在が示唆された。窒素分子によるBET比表面積 (SBET,N2) は、リン酸含有量の増加に伴って低下した。BJH細孔径分布から、各試料において直径約3 nmの細孔が存在していた。以上によって、リン酸の含有によってメソ細孔構造が維持されるものの、細孔数が減少することがわかった。

水蒸気吸脱着測定結果をFig. 1に示す。この結果より、水分子によるBET比表面積 (SBET,H2O) は、窒素吸脱着測定結果とは対照的にリン酸含有量増加に伴って増加した。つまり、水の相互作用する面積が増加したと考えられる。そこで、SBET,H2O/SBET,N2比によって水とPMPSとの相互作用の度合いを数値化したところ、TEOSに対するリン酸のモル比が0.1より大きくなるとSBET,H2O/SBET,N2比が1を超えた。これは、TEOSに対するリン酸のモル比が0.1より大きくなると、試料表面の大部分が水と相互作用していることを意味しており、細孔表面がすべて親水性になったと考えられる。

 

Fig. 1.  0PMPS、5PMPS、10PMPS、15PMPSの水蒸気吸脱着測定の結果.

 

固体29Si-NMRの結果をFig. 2に示す。この結果より、91ppmのQ2 (=OSi(OSi)2)、101ppmのQ3 (-OSi(OSi)3)、110ppmのQ4 (Si(OSi)4) のSiの状態に関する3種類のピークが観測された。この3種類のピークをガウス関数によって波形分離し、各成分の割合を算出した。その結果、TEOSに対するリン酸のモル比が大きくなると、Q2とQ3の割合が増加していることが明らかとなった。つまり、リン酸の添加によってシラノール基が増加すると考えられた。

 

Fig. 2.  0PMPS、5PMPS、10PMPS、15PMPSの29Si-NMRスペクトル測定の結果.

 

FT-IR結果より、リン酸の添加に伴って、シリカ骨格に起因する吸収帯ではスペクトル形状に変化が見られなかった。シラノール基に起因する3400 cm-1付近のブロードな吸収帯においては、リン酸の添加に伴ってスペクトル形状に変化が見られた。そこで、シリカ表面のシラノール基に起因する二つの振動成分、及び、吸着水に起因する三つの振動成分へガウス関数を用いて波形分離した。その結果、TEOSに対するリン酸のモル比が大きくなると、水分子の非対称伸縮振動、及び、シリカ骨格に結合した水分子のOH非対称性伸縮振動の両割合が増加した。このことから、リン酸の添加によってシラノール基の状態が変化し、そこへ吸着する水分子の状態も変化したと考えられる。

以上の結果より、PMPSの細孔表面は高い親水性を持つことがわかった。

 

4.その他・特記事項(Others

支援者名: 坂口 佳充 (所属機関・部署: 名古屋大学ナノテクノロジープラットフォーム)

本研究の一部は、文部科学省委託事業ナノテクノロジープラットフォーム課題として名古屋大学ナノテクノロジープラットフォーム の支援を受けて実施されました。坂口佳充先生、林育生氏の固体NMRの測定・評価に深く感謝いたします。

 

5.論文・学会発表(Publication/Presentation

なし。

 

6.関連特許(Patent

なし。

©2024 Molecule and Material Synthesis Platform All rights reserved.