利用報告書
課題番号 : S-14-NU-0007
利用形態 : 技術代行
利用課題名(日本語) : 異種金属ドープ型シリカ粒子のSiおよびAl配位数の固体NMR測定解析
Program Title (English) : Characterization of the Si and Al Coodination Number in Heteroatom-doped Silica Particles by a Solid State Si-NMR Analyses
利用者名(日本語) : 多賀谷 基博1)、(共同研究者) 坂口 佳充2)
Username (English) : M. Tagaya1), Y. Sakaguchi (Corroborative Researcher)2)
所属名(日本語) : 1) 長岡技術科学大学、2) 名古屋大学
Affiliation (English) : 1) Nagaoka University of Technology, 2) Nagoya University
1.概要(Summary)
微小な細胞領域を可視化する技術は、医療分野の診断・治療において重要である。今後、超早期診断を実現するために、生体組織を低侵襲に可視化する材料創製が必要である。本研究では、可視光励起により発光するがん細胞可視化ナノ粒子の創製を目的とした。生体毒性の低いユウロピウム(III) (Eu3+) をドープした多孔質シリカナノ粒子 (Eu:NPS) を合成し、アミノプロピルシラン (APTES) を介してがん細胞と特異的に結合する葉酸分子 (FA) を表面への固定化を試みた。合成した粒子 (FA-Eu:NPS) の細胞毒性とがん細胞の可視化特性を評価・考察した。
2.実験(Experimental)
Eu:NPSの原料は、アルキルアンモニウムブロミドを水に溶解し、Eu3+イオンとシリカ源を添加して合成した。焼成し、多孔質ナノ粒子へ転換した。次いで、APTESを結合させ、それを介してFAを化学修飾し、FA-Eu:NPS粒子を得た。粒子の評価は、固体29Si- NMRスペクトル、粉末XRDパターン、及び発光スペクトルにより評価した。細胞毒性は、FA-Eu:NPS存在下でNIH3T3線維芽細胞あるいはHelaがん細胞を培養し、増殖挙動により毒性に関して評価した。がん細胞の可視化特性は、結合・取込挙動により評価した。共焦点レーザー顕微鏡および微量分光光度計によって、観察・評価した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
合成したFA-Eu:NPSは、名古屋大学分子・物質合成プラットフォームにおいて、固体29Si- NMRによる評価を行った。その結果、=OSi(OSi)2 (Q2) に由来するピークが-94 ppmに、-OSi(OSi)3 (Q3) に由来するピークが-101 ppmに、Si(OSi)4 (Q4) に由来するピークが-110 ppmに観測された。これらのピーク位置より、非晶質構造シリカから成ることがわかった。さらに、Q2~Q4の相対比計算から、細孔壁はSi-O-SiとSi-OHより成ることがわかった。そして、Eu3+ドープによりSi-OHが減少・Si-O-Siが増加することがわかった。つまり、従来報告されているメソポーラスシリカ (MCM-41) に比べ、Eu3+添加によって縮合反応が進行することがわかった。さらに、APTESの修飾によりケミカルシフトが確認され、FTIRの結果を考慮すれば、Eu:NPS表面へのAPTESおよびFAの化学修飾が進行したことが明らかとなった。
FA-Eu:NPSのXRD測定から、2 =1–10 °で観測された回折 [(100)、(110)、(200) 及び (210)] は、ヘキサゴナル構造に同定された。TEM観察から、粒子表面に細孔径2–3 nmをもつ、規則性ナノ細孔構造が確認された。紫外光吸収スペクトルから、波長265 nm付近にEu3+–Oの電荷移動吸収帯が観測され、APTESのO原子とEu3+の相互作用が認められた。発光スペクトルから、最低励起状態5D0からの発光ピーク (5D0→7Fj (j = 0–3)) が観測され、5D0→7F2の強度が最も強かった。この結果は、Eu3+の配位構造の空間反転対称性が低く、電気双極子遷移が優先的になったためと考えられた。
FA-Eu:NPSは、細胞培養液へ容易に分散し、イメージングに最適な発光特性(低エネルギー励起・鋭い発光スペクトル・高い発光効率)であった。その発光色は橙色であった。さらに、量子収率は、8.7 %であり、実用可能な収率である事が示唆された。細胞表面へ本研究で開発したナノ粒子の培地分散液を添加し、細胞活性計測に基づいた生体毒性を評価した。その結果、粒子が存在する場合と粒子が存在しない場合において、HELAがん細胞と繊維芽細胞に対する増殖挙動は有意差なく同様であった。すなわち、本研究で開発したナノ粒子は、生体毒性がないことが示された。
HELAがん細胞へ粒子分散濃度50 μg/Lで噴霧してから12時間後に撮影した透過光像と蛍光像から、初期の細胞膜表面への結合反応およびレセプター介在性エンドサイトーシス経路による取込反応が生じることがわかった。さらに、HELAがん細胞集合体へ粒子分散濃度200 μg/Lで噴霧してから12時間後に撮影した透過光像と蛍光像から、HELAがん細胞集合体の形状に沿ってイメージングできることがわかった。
以上によって、本研究で合成したFA-Eu:NPSは、生体毒性がなく、可視光領域の励起光によってHELAがん細胞およびHELAがん細胞集合体の可視光イメージングが可能であることが示された。
4.その他・特記事項(Others)
なし
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
Motohiro Tagaya; Toshiyuki Ikoma; Zhefeng Xu; Junzo Tanaka “”Synthesis of Luminescent Nanoporous Silica Spheres Functionalized with Folic Acid for Targeting to Cancer Cell.” Inorganic Chemistry, Vol. 53 (2014) p.p.6817–6827. [2014年6月12日]
6.関連特許(Patent)
なし







