利用報告書
課題番号 :S-16-NM-0040
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :疎水化タラゼラチンを用いた外科用シーラントの開発
Program Title (English) :Hydrophobically modified, Alaska pollock derived gelatin based sealant
利用者名(日本語) :水田 亮
Username (English) :Ryo Mizuta
所属名(日本語) :筑波大学大学院 数理物質科学研究科 物質・材料工学専攻
Affiliation (English) :Graduate School of Pure and Applied Sciences, University of Tsukuba
1.概要(Summary)
外科用シーラントは、生体組織間の吻合部や肺からの空気漏れ等、外科手術において頻繁に使用されている。現在臨床で最も使用されているフィブリンシーラント(Fibrin)は、血液由来成分を用いていることから生体親和性に優れている。一方で、湿潤生体組織に対する界面接着強度が低いため、十分なシーリング効果が得られていない。そのため、外科手術中の湿潤環境において生体組織・臓器に接着し、優れたシーリング効果を発揮するシーラントの開発が望まれている。我々はこれまでに疎水化ブタ由来ゼラチンを用いた生体組織接着剤を開発し、湿潤生体組織に対して高い接合強度を有することを明らかにした。しかし、ブタ由来ゼラチンは高濃度において常温流動性が低く、使用前に加温する必要があった。
そこで本研究では、高濃度で常温流動性の高いタラ由来ゼラチン(ApGltn)を用い、疎水基種および導入率の異なる疎水化ApGltnを合成し(Hm-ApGltn)、これらとポリエチレングリコール系架橋剤から成るシーラントの湿潤生体組織に対するシーリング効果について評価した。
2.実験(Experimental)
【利用した主な装置】
・表面プラズモン共鳴測定装置(Biacore X100)
【実験方法】
本実験ではBiacore X(GE Healthcare)によりHm-ApGltnと細胞外基質タンパク質(ECM)との相互作用を評価した。ここでは血管や肺組織に存在するECMタンパク質との相互作用を検討した。
はじめに濃度1.0mg/mlのHm-ApGltnをカルボキシメチルデキストランチップ(CM5)基板上へ流すことによってゼラチンの固定化を行った。種々のHm-ApGltnを固定した後、アナライト溶液を流して、表面プラズモン共鳴シグナルから結合定数の算出を行った。
3.結果と考察 (Results and Discussion)
Hm-ApGltn溶液を流すことによって、リガンドの固定化は可能であった。また、細胞外マトリックスタンパク質を数種類選択して、結合定数の算出を行った。その結果、未修飾のゼラチンと比較して疎水化したゼラチンが優位に高い結合定数を示す細胞外マトリックスタンパク質が存在することが明らかとなった。したがって、ゼラチンを疎水化することによって、細胞外マトリックスタンパク質との相互作用が向上した結果、シーリング効果が向上したと考えられた。
4.その他・特記事項(Others)
NIMS分子・物質合成プラットフォームの箕輪貴司博士および李香蘭博士、服部晋也博士に技術相談とトラブル対応をして頂き、厚く御礼申し上げます。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
[1] Taguchi, T.; Mizuta, R.; Yoshizawa, K.; Ito, T.; Kajiyama, M., J. Biomed. Nanotechnol. 2016, 12, 128-134.
[2] Mizuta, R.; Ito, T.; Taguchi, T., Colloids Surf., B 2016, 146, 212-220.
[3] Mizuta, R.; Taguchi, T., Macromol. Biosci., in press (2016)
6.関連特許(Patent)
なし。