利用報告書
課題番号 :S-20-MS-1059
利用形態 :施設利用
利用課題名(日本語) :磁性イオンの有るBEDT-TSF塩の伝導面内相互作用の研究
Program Title (English) :Study on the intermolecular interaction of BEDT-TSF salts containing the magnetic ion
利用者名(日本語) :山本貴
Username (English) :T. Yamamoto
所属名(日本語) :愛媛大学大学院理工学研究科(理学部)
Affiliation (English) :Graduate School of Science and Engineering, Ehime University
1.概要(Summary )
磁性イオンの有るBEDT-TSF塩は、磁性イオンによって超伝導が抑制・制御されるという磁場誘起超伝導の観点から注目されてきた。ところが、ゼロ磁場での電子状態が詳しく調べられていないため、二次元伝導面自体が超伝導になる原因はよくわかっていない。そこで、磁場誘起超伝導を示すλ型(BEDT-TSF)2FeCl4(以降λ型)と、磁場誘起超伝導を示さないκ型(BEDT-TSF)2FeCl4(以降κ型)のゼロ磁場における二次元伝導面の電子状態の違いや共通性を探る実験を立案した。本課題では、ラマンスペクトルに観測されるC=C結合の伸縮振動に注目した。ところが、新型コロナウイルスに関係した愛媛大学理学部の厳しい移動制限のため、2回滞在予定のところ1回しか滞在できず、当初の計画の一部しか実行できなかった。
2.実験(Experimental)
機器センターの顕微ラマン分光装置(RENISHAW in Via Reflex)を用いて測定した。まずは四種類のレーザーをそれぞれ用いて、λ型とκ型の室温におけるラマンスペクトルを測定した。その後、ヘリウムフロータイプのクライオスタットに装着して、低温におけるスペクトルを測定した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
四種類のレーザーをそれぞれ用いて室温で測定したところ、近赤外光励起で最もS/N比の良いスペクトルが得られることを見出した。試料をヘリウム温度まで冷却した後、四種類のレーザーをそれぞれ用いて測定を行ったところ、短時間でスペクトルを得るには近赤外光励起が最適であることが分かった。
今度は、ヘリウム温度近傍における一部の分子内振動の帰属を行うために、近赤外光を長時間照射(数時間から半日)することでスペクトルを得た。λ型とκ型では、結晶構造が異なるにもかかわらず、C=C伸縮振動の総数と周波数はほぼ共通していた。これは、二次元伝導面内における重なり積分の配列がほぼ共通していることを示唆している。
κ型において観測したC=C伸縮振動の総数は、X線構造解析結果に基づく予想よりも多かった。従って、κ型はゼロ磁場の低温で金属伝導を示すにもかかわらず、二次元伝導面の対称性が低下した結果、ゼロ磁場の低温で絶縁体であるλ型に類似したスペクトルになったと考えられる。λ型もκ型も分子の電荷量の不均化が観測された。対称性の低下と不均化は、(部分的であっても)静的な現象なのか、それとも、動的なのかを調べる必要がある。そのためには、ラマンスペクトルの温度依存性や近赤外光以外の励起光による測定も行う必要がある。しかし、愛媛大学理学部の厳しい移動制限のため、当初の計画の一部しか実験ができなかった。また、本課題と関連した磁性イオンの無い同型物質の研究も、移動制限により1度も実行できなかった。
4.その他・特記事項(Others)
なし。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし。
6.関連特許(Patent)
なし。