利用報告書

空気酸化による金属–フェノキシルラジカル錯体の生成とその性質・反応性
鈴木 崇1), 吉田 結希2),島崎 優一2)
1) 茨城大学大学院理工学研究科, 2) 茨城大学理学部

課題番号 :S-17-MS-0033
利用形態 :共同研究
利用課題名(日本語) :空気酸化による金属–フェノキシルラジカル錯体の生成とその性質・反応性
Program Title (English) :Formation and Characterization of Metal-Phenoxyl Radical by Air Oxidation
利用者名(日本語) :鈴木 崇1), 吉田 結希2),島崎 優一2)
Username (English) :T. Suzuki1), Y. Yoshida2), Y. Shimazaki2)
所属名(日本語) :1) 茨城大学大学院理工学研究科, 2) 茨城大学理学部
Affiliation (English) :1) Graduate School of Science and Engineering、Ibaraki University, 2) College of Science, Ibaraki University.

1.概要(Summary )
 これまで、報告者らはジフェノラート錯体である金属−サレン錯体の酸化体において、キレート環の大きさや、立体的な要因等により配位子のドナー性を変化させることで、電子状態がどのように変化するかについて検討してきた。その結果、金属(II)-サレン錯体において、微細な違いによる電子状態の変化が、金属錯体の電子状態や有機基質の反応性を制御することを見出してきた。これらの研究では、高価な酸化剤や手間のかかる電解酸化等の手法を用いてきた。このような高原子価状態の金属錯体をより簡便な方法で生成させ、特に銅錯体に見られるような有機分子の酸化反応を簡便にかつ触媒的に進行させることを目的とし、空気酸化により生成する高原子価種の生成・同定について検討したところ、空気酸化によるNi(II)-phenoxyl radical錯体の生成を見出し、さらにこのラジカル錯体の単離ならびに結晶構造解析に成功し、電子状態の詳細について検討した。
2.実験(Experimental)
 分子科学研究所において正岡先生との共同研究として、得られた錯体の電子状態の詳細についてBruker EMXplus spectrometerを用いて4Kから温度を10Kずつ昇温させ測定し、得られた各温度におけるESRの結果から超交換相互作用定数を求めた。
3.結果と考察(Results and Discussion)
 異なる2つのフェノール基を有する三脚型配位子を用い、過塩素酸ニッケル(II)と配位子に対して一等量のトリエチルアミン存在下、不活性ガス雰囲気下で反応させたところ、淡黄色の化学種が生成した。ここに酸素を添加すると、ジメチルアミノフェノキシルラジカル由来と考えられる特徴的な吸収帯を510 nmに示す錯体へと変化した。錯体のESRスペクトルは、g = 2.2 に等方的なESRシグナルを示す化学種であり、温度変化による強度変化から、分子内に反強磁性的な磁気的交換相互作用(J = -29 cm-1)を有する化学種であると見積もられることから、ニッケル(II)-ラジカル種であると帰属した。さらに、その溶液を低温で放置することで錯体を結晶として単離することに成功した。X線結晶構造解析の結果、錯体はジメチルアミノフェノール部位とニッケルイオンとの結合Ni–Oの距離(2.112(3) Å)はNi–フェノラートのNi–O結合距離(1.972(3) Å)よりも長くなっていた。また、ジメチルアミノフェノール部位のC–O結合距離は1.282(5) Åと、もう一方のフェノール部位のC–O結合距離(1.319(5) Å)と比べ短くなっており、これらの結果から錯体はジメチルアミノフェノキシルラジカル錯体であることが判明した。
4.その他・特記事項(Others)
なし。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) H. Oshita, M. Kikuchi, K. Mieda, T. Ogura, T. Yoshimura, F. Tani, T. Yajima, H. Abe, S. Mori, Y. Shimazaki, ChemistrySelect, 2 (2017) 10221 –10231.
(2) 鈴木 崇 他 錯体化学第67回討論会, 平成29年9月18日
6.関連特許(Patent)
なし。

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