利用報告書

糸状菌の環境応答機構の解明
桝尾俊介
筑波大学生命環境系

課題番号 :S-19-NM-0047
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :糸状菌の環境応答機構の解明
Program Title (English) :Proteomic responses of filamentous fungi to environmental cues.
利用者名(日本語) :桝尾俊介
Username (English) :S. Masuo
所属名(日本語) :筑波大学生命環境系
Affiliation (English) :University of Tsukuba, Faculty of Life and Environmental Sciences

1.概要(Summary )
 糸状菌(かび)は土壌、動植物の体内など様々な環境に適応し生育範囲を拡大させる。自然環境中の糸状菌にとって土壌は最も身近な存在であるものの、これに対する糸状菌の代謝応答についてはほとんど未知である。我々は、液体培地に土壌を添加して土壌糸状菌Aspergillus nidulansを培養したところ、本菌の生育が促進されることを発見した。また、このことに土壌腐植の構成成分であるフミン酸(Humic acid, HA)が関与することが示された。本研究では、糸状菌Aspergillus nidulans のHA応答機構を明らかとするため、種々の生化学的解析とショットガンプロテオミクスを行った。その結果、A. nidulansがHAに応答して抗酸化酵素とともにリボソーム関連酵素の発現を上昇させることが明らかとなった。

2.実験(Experimental)
LC-MS(Q-Exactive)を用いてショットガンプロテオミクスを行った。糸状菌Aspergillus nidulansをHAを含むあるいは含まない液体最少培地で培養し、得られた菌体からタンパク質を抽出した。Filter aid sample preparation (FASP)法を用いて全タンパク質をトリプシン消化後、ペプチドを回収した。C18チップを用いて得られたペプチドを脱塩・精製し、LC-MS/MSに供した。nano-LC の分離カラムはZaplous column Pep-C18, 3um, 120Å, 0.1×150 mmを用いた。Proteome discoverer 2.0 を用いてデータ解析を行った。

3.結果と考察(Results and Discussion)
 HAを添加することで発現が2倍以上増加するタンパク質が182個得られた。Gene Ontology解析を行ったところ、リボソームの生合成に関わるタンパク質が有意に濃縮されていることが明らかとなった。また、酸化ストレス応答に関わる酵素の発現もHA存在下で上昇することが明らかとなった。A. nidulans はHAの存在下、タンパク質の翻訳系を活性化するとともに、細胞内で生じる活性酸素を抗酸化系で除去することで、生育を促進させることが示唆された。

4.その他・特記事項(Others)
本研究はJST ERATO 野村集団微生物制御プロジェクトの一環として行われた。技術支援者:箕輪貴司、竹村太郎、服部晋也

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
・芹澤知子,桝尾俊介,別役重之,高谷直樹,竹下典男「糸状菌の先端生長におけるカルシウム情報伝達経路」第19回糸状菌分子生物学コンファレンス、札幌、2019年11月
・宮崎つぐみ,大泉太於,中澤奈美,桝尾俊介,高谷直樹 「フミン酸添加培養モデルが解明する糸状菌の土壌生態」第19回糸状菌分子生物学コンファレンス、札幌、2019年11月
・宮崎つぐみ,大泉太於,中澤奈美,桝尾俊介,高谷直樹「フミン酸添加培養モデルが解明する土壌環境中での糸状菌の代謝制御」日本農芸化学会2020年度大会、福岡、2020年3月

6.関連特許(Patent)
なし。

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