利用報告書
課題番号 :S-20-NM-0024
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :糸状菌の環境応答機構の解明
Program Title (English) :Proteomic responses of filamentous fungi to environmental cues.
利用者名(日本語) :桝尾俊介
Username (English) :S. Masuo
所属名(日本語) :筑波大学生命環境系
Affiliation (English) :University of Tsukuba, Faculty of Life and Environmental Sciences
1.概要(Summary)
糸状菌(かび)は土壌、動植物の体内など様々な環境に適応し生育範囲を拡大させる。マクロファージは一酸化窒素(NO)を生産することで、生体内に侵入した異物を除去することが知られるが、病原性のものを含む多くのカビはNOに耐性を示す。我々は、モデルカビAspergillus nidulansが有する様々なNO耐性機構を明らかとしてきた。しかしながら、カビにはこれ以外の未知の耐性機構が存在すると考えられている。近年、我々はA. nidulansのNO耐性に、解糖系酵素グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼが関与すること、その活性がNOに耐性を示すことを見出した。本研究では、その耐性化メカニズムを明らかとするため、LCMSを用いて当該酵素のS-ニトロシル化部位の特定を行った。
2.実験(Experimental)
【利用した主な装置】
【実験方法】
グリセロアルデヒ-3-リン酸デヒドロゲナーゼの大腸菌発現用プラスミドを作製し、大腸菌BL21(DE3)に導入した。得られた株をIPTG存在下で培養し、Histrap-FF crudeカラム(Cytiva)を用いて組換え酵素を精製した。これに様々な濃度のNOドナーを添加し、iodoTMT試薬 (Thermo Scientific)を用いてS-ニトロシル化システインの特異的標識を行った。トリプシン処理後のペプチドをアセトン沈殿により回収し、C18チップを用いて脱塩・精製した。得られたサンプルをLC-MS/MSに供した。nano-LC の分離カラムはZaplous column Pep-C18, 3um, 120Å, 0.1×150 mmを用いた。Maxquant1.6.17.0を用いてS-ニトロシル化部位の特定を行った。
3.結果と考察(Results and Discussion)
S-NitrosoglutathioneをNOドナーとして用いたサンプルにて、システイン残基のS-ニトロシル化が確認された。本酵素は複数のシステイン残基を有するが、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ活性が維持される低濃度のS-Nitrosoglutathioneを添加した場合では、活性に関与しないシステイン残基はS-ニトロシル化されるものの、活性中心のシステイン残基はS-ニトロシル化されていないことが明らかとなった。活性中心のシステイン残基は、他のものに比べS-ニトロシル化されづらいと考えられ、これが本酵素のNO耐性に寄与すると予想された。
4.その他・特記事項(Others)
本研究はJST ERATO 野村集団微生物制御プロジェクトの一環として行われた。技術支援者:箕輪貴司、竹村太郎、服部晋也
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 門岡千尋, 鈴木康太, 桝尾俊介, 高谷直樹:Aspergillus nidulansにおける一酸化窒素ストレス誘導型グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼGpdCの機能解析, 日本農芸化学会2021年度大会, 2021, 03, 28
6.関連特許(Patent)
なし。