利用報告書

細胞表面に高分子を提示可能な新規両親媒性分子の開発
中窪 樹, 水野 稔久

課題番号                :S-20-NM-0051

利用形態               :技術代行

利用課題名(日本語)    :細胞表面に高分子を提示可能な新規両親媒性分子の開発

Program Title (English) :Development of novel amphiphiles that can present macromolecules onto cell

membrane surfaces

利用者名(日本語)      :中窪 樹, 水野 稔久

Username (English)     :T. Nakakubo, T. Mizuno

所属名(日本語)        :名古屋工業大学大学院工学専攻

Affiliation (English)  :Graduate School of Engineering, Nagoya Institute of Technology

 

 

1.概要(Summary)

近年、我々の研究室ではジェミニ型の分子骨格を持ったペプチドベースの界面活性剤(PG-surfactant、Fig. 2)から、種々の機能分子の開発に取り組んでおり、細胞膜を完全に溶解し膜蛋白質抽出試薬として機能するPG-surfactant(NPDGC12KK, DKDKC12Dなど)、あるいは細胞毒性低くエンドサイトシス過程を経て細胞内に取り込まれるPG-surfactant(K3-DKDKC12など)等の開発に成功している。本研究では、細胞膜への合成高分子提示が可能なPG-surfactantの検討を行った。

2.実験(Experimental)

【利用した主な装置】

  • サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)装置

【実験方法】

細胞膜への提示を検討する高分子にはポリアクリルアミドを選択し、PG-surfactantへの共有結合による導入を可能とするために、末端に2-ピリジルジチオ基を持ったポリアクリルアミド(PAn-DTP)の合成を行なった。具体的には、2-ピリジルジチオ基を構造内に含むRAFT剤(BSTP pyridyl disulfide)を用いたRAFT重合により合成を行った(Fig. 1)。PAn-DTPの数平均分子量(Mn)、分子量分散度(PDI)はSEC分析により評価を行い、Mn = 14 kDa, PDI = 1.16であった。

Fig. 1 BSTP pyridyl disulfideをRAFT試薬として用いたポリアクリルアミド(PAn-DTP)のRAFT重合

 

また本研究で用いるPG-surfactant(FITC-DKDKC12KGC)には、R1, R2の部分にC12のアルキル鎖、X位にはAsp-Lys-Asp-Lys、Y位にはFITC修飾されたGaba、Z位にはLys-Gly-Cys-NH2配列を持つものを用いた。PG-surfactantの合成は、Fmoc固相合成法により行い、RP-HPLCにより単離精製は行った。

 

Fig. 2 PG-surfactantの分子構造

 

ポリアクリルアミドを修飾したPG-surfactant(FITC-DKDKC12K-PA)の合成は、FITC-DKDKC12KGCとPAn-DTPを中性バッファー中で反応させることにより行い、RP-HPLCにより単離精製を行った。

細胞表面への提示実験に関しては、マウス線維芽細胞由来NIH3T3細胞を用いて評価を行った。共焦点蛍光顕微鏡を用い、FITC修飾されたポリアクリルアミド-PG-surfactant複合体の分配状況の評価を行った。

 

3.結果と考察(Results and Discussion)

ポリアクリルアミドを修飾したPG-surfactant(FITC-DKDKC12K-PA)の合成確認は、S-S結合を還元したときに、PG-surfactant部分(FITC-DKDKC12KGC)とポリアクリルアミド部分に分離されるかどうかで評価を行った。RP-HPLCでこの反応液を分析した時の結果を、Fig. 3に示した。保持時間18分付近に溶出されていたFITC-DKDKC12K-PA由来のピークが反応時間の進行とともに消失し、一方でFITC-DKDKC12KGCに由来するピークへのシフト、収束が見られた。この結果は、想定通りFITC-DKDKC12K-PAが単離精製できていることを示唆した。

Fig. 3 PG-surfactant(FITC-DKDKC12K-PA)の合成確認のためのRP-HPLCによる分析

 

そこで、次にFITC-DKDKC12K-PAの哺乳類細胞の細胞膜への提示実験を行った。ガラスベーディッシュ(35 mmφ)に予め播種し一晩培養後のNIH3T3細胞に対して、終濃度1 µMとなるように、FITC-DKDKC12KGCをDMEM培地(+10% FBS)に添加した。その後1時間あるいは3時間培養し、共焦点蛍光顕微鏡により、FITC-

 

Fig. 4 FITC-DKDKC12K-PA(1 µM)を添加後のNIH3T3細胞の蛍光顕微鏡画像の比較(添加前(左上)、添加1時間後(右上)、添加3時間後(左下))。黄緑色に発色が見られる部分がFITC由来の蛍光輝点

 

DKDKC12K-PA由来の蛍光輝点の分配を評価した。その結果をFig.4に示した。

Fig.4の蛍光顕微鏡画像から明らかなように、細胞膜周辺に若干の蛍光輝点が観測されたものの、残念ながら今回検討を行ったFITC-DKDKC12K-PAについては、細胞膜表面への提示も、あるいは細胞質内への取り込みも見られなかった。この原因としては、PG-surfactant部分に導入されたカチオン性残基の数が少ないことで、ポリアクリルアミド鎖部分の親水性に負け、細胞膜表面に結合できなくなってしまっていることが考えられた。本研究期間内では、残念ながら研究目的の達成には至らなかったが、ポリアクリルアミドを修飾したPG-surfactantの合成手法の確立はできたため、引き続きPG-surfactant部分のアミノ酸配列の最適化を行っていくことにより、ポリアクリルアミドなどの合成高分子を細胞膜表面に提示可能となるPG-surfactantの開発を続けていきたい。

 

4.その他・特記事項(Others)

高分子修飾PG-surfactantの合成に必要となる、2-ピリジルジチオ基を末端に持つポリアクリルアミドユニットの分子量分析に関して、分子・物質合成プラットフォーム服部晋也氏、吉田真樹氏に分析支援を受けたことに感謝申し上げます。

 

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)

(1) T. Shimamoto, T. Nakakubo, T. Noji, S. Koeda, K. Kawakami, N. Kamiya, T. Mizuno, “Design of PG-surfactants bearing polyacrylamide polymer chain to solubilize membrane proteins in a surfactant-free buffer”, International Journal of Molecular Sciences, 22, 1524 (2021).

 

6.関連特許(Patent)

なし

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