利用報告書

縮環π電子系化合物の励起状態構造およびエネルギー計算
高木幸治1)
1) 名古屋工業大学大学院工学研究科

課題番号 :S-15-MS-0032
利用形態 :共同研究
利用課題名(日本語) :縮環π電子系化合物の励起状態構造およびエネルギー計算
Program Title (English) :Calculation of Excited State Structure and Energy for Fused  -Electron Systems
利用者名(日本語) :高木幸治1)
Username (English) :K. Takagi1)
所属名(日本語) :1) 名古屋工業大学大学院工学研究科
Affiliation (English) :1) Nagoya Institute of Technology

1.概要(Summary )
 縮環π電子系化合物は、剛直で平面性が高い構造、分子間での強いπスタック、電子状態を予測しやすいといった特徴から、合成化学者のみならず材料化学者の注目を集めてきた。一方、固体状態で強く発光する化合物は、さまざまな分野への応用が可能であることから、新規材料の開発が望まれているところである。励起状態における分子内プロトン移動(ESIPT)を経由する発光は、大きなストークスシフトを示すため、蛍光発光の自己吸収を起こしにくいことが知られており、実験と理論両面から長らく研究が行われてきた。これまでに我々は、イミダゾール骨格をもつ縮環π電子系化合物について研究しており、その過程において、ESIPTを起こす蛍光発光性化合物の合成に成功した。本課題では、この化合物の励起状態構造ならびにエネルギー計算を行って、光物理過程を解明することを目的とした。

2.実験(Experimental)
 縮環構造をもち分子内にヒドロキシ基を有する化合物Aと、ヒドロキシ基を有さない化合物Bを合成し、種々の溶媒中で吸収と蛍光スペクトル測定を行った。理論計算には、分子科学研究所のクラスター計算機を用い、Gaussianプログラムにて、基底状態と励起状態の構造最適化を行ったのち、SCA-CI法とTD-DFT法によって吸収と発光スペクトルの予測を行った。

3.結果と考察(Results and Discussion)
 化合物Aは、主たる蛍光バンドが大きなストークスシフト(11000 cm-1以上)を示したことから、ESIPTを経由して蛍光発光していることが示唆された(図1、黒線)。これに対し、化合物Bは、振動微細構造のあるストークスシフトの小さい蛍光スペクトルとなった(図1、緑線)。化合物Aの蛍光スペクトルは、溶媒の種類に依存し、比較的低極性のDCMやTHF溶液では、ケト体からの発光が530 nm付近に観測された。MeOH溶液では、このケト体からの発光がブルーシフトしており、水素結合の存在が示唆された。一方、塩基性溶媒であるDMF溶液では、415 nm付近に新たな発光が観測された。

図1 THF溶液での吸収スペクトル(左)と蛍光スペクトル(右)(黒:化合物A、緑:化合物B)
 化合物Aについて、THFを溶媒として理論計算を行った結果、TD-DFT計算により吸収スペクトルが実験結果をよく再現していることが分かった。また、ESIPTを経由するケト体からの蛍光発光についても定性的に評価することができた。今後、他の溶媒中での理論計算、プロトン移動のポテンシャルエネルギー計算を実施することで、この化合物の光物理過程を解明できると考えられる。

4.その他・特記事項(Others)
なし
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 高木幸治・伊藤楓, 第96回日本化学会春季年会, 平成28年3月24日.
(2) 伊藤楓・高木幸治, 2015年光化学討論会, 平成27年9月10日.

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