利用報告書
課題番号 :S-20-NI-0009
利用形態 :技術代行
利用課題名(日本語) :耐酸化性グリーンラストの57Fe メスバウアー分光測定
Program Title (English) :57Fe Mössbauer spectroscopy measurement of oxidation-insensitive green rust
利用者名(日本語) :井出裕介
Username (English) :Y. Ide
所属名(日本語) :物質・材料研究機構(NIMS)、国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(WPI-MANA)
Affiliation (English) :National Institute for Materials Science (NIMS), International Center for Materials Nanoarchitectonics (WPI-MANA)
1.概要(Summary )
Green Rust(GR, 緑の錆)は,二価の鉄原子と三価の鉄原子から成る混合原子価の水酸化鉄系鉱物であるが,鉄の腐食過程で生成する中間体とも考えられており,酸化に対して非常に不安定であるため,露頭は殆ど報告されていない。合成も可能であるが,空気中に放置すれば即安定な(水)酸化鉄へ相転移するため材料研究は限られてきた。
我々は,独自開発したソルボサーマル法により,空気中に9ヵ月以上放置しても酸化しないGRの合成に成功した。しかしながら,二価と三価の鉄原子の割合は不明であったため,本課題において,57Fe メスバウアー分光測定により評価を試みた。他の機器分析結果とも併せ,耐酸化性の要因も考察した。
2.実験(Experimental)
粉末試料(75 mg)をシリコーン製真空グリースと練り合わせて,高純度Al箔(面積15 mm × 15 mm)の間に挟み込み(Fe換算で面密度10 mg/cm2),通常の透過法を用いて室温での57Feメスバウアースペクトルを測定した。速度校正はa-Feのスペクトルで行い,スペクトルの重心位置を速度0 mm/sの基準に設定した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
図1に合成したGRのメスバウアースペクトルを示す。
スペクトルより得られるIsomer Shift(IS)やQuadrupole Splitting(QS)等の値は,報告されているGRのそれらと一致した。注目すべきことに,Fe(III)の割合(Fe(III)/{Fe(II) + Fe(III)})が0.9以上であり,これは報告されている値(0.25~0.33)より相当大きかった。GRは構造的には層状複水酸化物に分類され,Fe(OH)6が二次元的に連結した層がFe(II)の一部がFe(III)に置換されることで正に帯電し,それを補償するために層間には陰イオンが存在する。異常に高いFe(III)割合は,異常に高い層電荷密度を意味し(層間は陰イオンによって充填),粉末X線解析から明らかとなったこれまた異常に高い結晶性(粒子に欠陥が少ない)も相まって,O2が層内部のFe(II)サイトにアクセスし難いことが耐酸化性の一因と考えられた。
化学的にも安定なことが明らかとなったため,光触媒活性(NH3BH3からのソーター水素発生)を評価したところ,α-FeOOH等一般的な鉄系鉱物や,基準TiO2光触媒(P25)を凌駕する活性を示すことも明らかとなった。
図1.合成したGRの57Fe メスバウアースペクトル。
4.その他・特記事項(Others)
なし。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) R.Tahawy et al., Appl. Catal. B, 286(2021)119854.