利用報告書

自己組織化を誘導するバイオナノファイバーの局所的表面改質
石田紘一朗, 横田慎吾, 近藤哲男
九州大学 大学院生物資源環境科学府

課題番号 :S-20-KU-0002
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :自己組織化を誘導するバイオナノファイバーの局所的表面改質
Program Title (English) :Local surface modification of bio-based nanofibers to induce self-assembly
利用者名(日本語) :石田紘一朗, 横田慎吾, 近藤哲男
Username (English) :K. Ishida, S. Yokota, T. Kondo
所属名(日本語) :九州大学 大学院生物資源環境科学府
Affiliation (English) :Gladuate School of Bioresource and Bioenvironmental Sciences,
Kyushu University

1.概要(Summary)
脱炭素社会の構築のためには、生物素材を用いたマテリアルデザインが重要な課題の一つとなっている。特に、地球上に最も豊富に存在するバイオマスであるセルロース繊維から調製されるセルロースナノファイバー(CNF)が、バイオナノ素材として注目を集めている。
本研究では、CNFの高次構造形成の制御による機能創出を見据え、その表面を局所的に改質した新たなナノビルディングブロックの創製を試みた。具体的には、CNFの水-油界面への吸着特性を活かし、界面での化学改質を施すことによって疎水性官能基をCNF上に局所的に導入し、二面性を有するCNFを調製した。この二面性を持ったCNFを集合させたフィルムは、一般的な均一分散系で化学修飾されたCNFのフィルムと比較してより疎水的な性質を示すことが示された。表面化学組成を詳細に検討したところ、局所改質されたCNFのフィルムにおいて、表面近傍の疎水性官能基の分布が、その表裏で異なることが定量的に示された。

2.実験(Experimental)
使用装置名:X線光電子分光分析装置AXIS-ULTRA
水中カウンターコリジョン法で調製されたCNF分散水とトルエンを所定条件で攪拌することによってエマルションを調製した。その際、あらかじめアセチル化試薬および触媒を溶解させたトルエン溶液を用いた。所定の条件でアセチル化反応に供したのち、精製し、局所改質CNFを得た。コントロールとして、均一分散系でのアセチル化も施した。得られた改質CNF分散水を用いてガラス基板上でキャストフィルムを調製した。乾燥後、フィルムを基板から剥離させ、その表裏をX線光電子分光法に供した。得られたC1s narrow スペクトルについて、ピーク分離を行い、改質CNFフィルムの表面化学組成ならびに化学構造を解析した。

3.結果と考察(Results and Discussion)
 一般的な均一分散系で表面改質を行ったCNFの場合では、はく離したフィルムの空気側と基板側のXPSスペクトルにおいて差異はみとめられなかった。一方、エマルション系で局所的に表面アセチル化を施したCNF由来のフィルムについては、膜の空気面で疎水性官能基(アセチル基)の割合が高く、基板面ではヒドロキシ基の割合が高くなっていることが示された。得られたフィルム上に滴下された水滴の静的接触角や膜内への浸透にも差異がみられたことから、疎水性官能基と親水性のヒドロキシ基の局在の違いによって外部環境に応じたCNFの集合構造形成に違いが生じ、膜表面の物性に寄与したものと推察された。

4.その他・特記事項(Others)
なし。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) K. Ishida, S. Yokota and T. Kondo, Carbohydrate Polymers, 261 (2021) 117845.
(2) 横田慎吾,近藤哲男,第69回高分子学会討論会,令和2年9月17日.

6.関連特許(Patent)
なし。

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