利用報告書
課題番号 :S-16-JI-0028
利用形態 :技術代行
利用課題名(日本語) :芳香族チオール化合物のMALDI-MS用マトリックスとしての性能評価
Program Title (English) :Evaluation of aromatic thiol compound for matrix molecule of MALDI-MS
利用者名(日本語) :浅川大樹
Username (English) :D. Asakawa
所属名(日本語) :国立研究開発法人 産業技術総合研究所
Affiliation (English) :National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST)
1.概要(Summary )
マトリックス支援レーザー脱離イオン化-質量分析法(MALDI-MS)は生体分子や合成高分子の分析に広く用いられている手法である。MALDIはまず試料をマトリックスと呼ばれるレーザー光を吸収する低分子化合物と混合し、これらの混合結晶を作成する。これにレーザーを照射し試料の気相イオンを生成させる。MALDI-MSで得られる結果は使用したマトリックスに依存し、MALDI-MS測定における優れたマトリックスの開発が活発に行われている。マトリックスとしてはフェノールや芳香族カルボン酸、芳香族アミンを骨格とする低分子有機化合物が用いられる。これまでに数百種類の化合物がMALDI-MS用マトリックスとして検討されているが、芳香族チオール化合物についての報告はほとんど無い。本研究はチオサリチル酸をモデル化合物として、MALDI-MS用マトリックスとしての性質について検討を行った。
2.実験(Experimental)
実験に用いたチオサリチル酸は和光純薬から購入したものをメタノールに溶解させ、再結晶により精製した。UV-VIS測定には島津社UV-3100PC、MALDI-MS測定にはBruker社UltrafleXtremeを使用した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
まず、チオサリチル酸のUV-VIS測定を行い、MALDI-MSで使用する窒素レーザー(337 nm)、Nd:YAGレーザーの三倍高調波(355 nm)に十分な吸収があることを確認した。次に、ペプチド・サブスタンスPを試料として測定を行ったところ、通常のマトリックスを使用したときと同様に試料のプロトン化分子が検出され、チオサリチル酸がMALDI-MSにおいてマトリックス分子として機能することを確認した。最後に、チオサリチル酸のチオールの反応性に着目し、システイン含有ペプチドの測定を行った。Figure 1にジスルフィド結合を2つ有するα-conotoxin SIのMALDIマススペクトルを示す。チオサリチル酸をマトリックスとして使用したとき、α-conotoxin SIのジスルフィド結合と反応し、チオサリチル酸付加体[M+TSA+H]+, [M+2TSA+H]+が生成した。この結果から、チオサリチル酸をマトリックスとして用い、MALDI-MSで分析を行うことでペプチド中に存在するジスルフィド結合についての情報を得ることができることがわかった。化学反応メカニズムの詳細については密度汎関数法による理論計算を用いて検討し、論文発表を行った。
4.その他・特記事項(Others)
本研究は大坂一生先生の支援を受けて行いましたので、共著として論文発表を行いました。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) D. Asakawa, I. Osaka, J. Mass Spectrom., Vol. 52(2017)p.p.127-131.
6.関連特許(Patent)
なし。







