利用報告書

複金属窒化物薄膜の磁気特性に関する研究
強博文1), 浅野秀文1)
1) 名古屋大学大学院工学研究科

課題番号                :S-20-NI-0017

利用形態                :共同研究

利用課題名(日本語)    :複金属窒化物薄膜の磁気特性に関する研究

Program Title (English) :Magnetic Properties of multi-metal nitride thin film

利用者名(日本語)      :強博文1), 浅野秀文1)

Username (English)     :B. W. Qiang1), H. Asano2)

所属名(日本語)        :1) 名古屋大学大学院工学研究科

Affiliation (English)  :1) Department of Engeerning、Nagoya University

 

 

1.概要(Summary )

磁気スキルミオンは空間反転対称性の破れでカイラル磁性体の中に存在する磁気ナノ粒子であり、様々な起因の中でDzyaloshinskii–Moriya (DM)相互作用起因の磁気スキルミオンはより小さなサイズ(数10 nm ~数100 nm)と高めな動作温度(室温近傍)で大きな応用的ポテンシャルを示している。室温スキルミオンはいくつかの物質において発見されてきたが、室温動作及び微小サイズを両立出来るスキルミオン材料は未だに発見されていない。本研究が注目している充填β-Mn構造Mo窒化物は以前からFexCo1.5-xRh0.5Mo3Nバルクにおいて100 Kでスキルミオンの発見が報告されたにもかかわらず、これまで薄膜の報告はなかった。最近、Feと重金属(Pd, Pt)の組成調整により、交換相互作用とDM相互作用のバランスが制御でき、スキルミオンの高キュリー温度TC及び微小サイズの両立が可能と報告されている。本研究はFe2-xPdxMo3N(FPMN)薄膜を用いて微小サイズ室温スキルミオンの開拓を目的とした。

 

2.実験(Experimental)

東英工業製のVSM試料振動型磁化測定システム及び凌和電子製の高周波透磁率測定装置を用いて薄膜試料の磁気特性の評価を行った。

 

3.結果と考察(Results and Discussion)

磁気特性評価に用いたFPMN試料はC-サファイヤ基板に(110)方向成長した薄膜であり、その面直XRDパタンはFig. 1に示す。薄膜由来の(110)シリーズのピークが観測され、エピタキシャル成長の状況が分かっている。本薄膜試料は室温におけるLorentz-TEM観察により、微小サイズのスキルミオン(60 nm)が観測されている。そして、高温窒素ガス中で薄膜試料の磁化温度依存性の測定を通して試料のキュリー温度(TC)の特定ができた。磁化温度依存性の測定結果はFig. 2に示すように昇温測定と降温測定の磁化が一致し、高温によるサンプルの劣化や窒素の脱出はほぼないという結果になった。そして、試料のキュリー温度は600 Kであり、微小サイズ(60 nm)と高TC(600 K)の両立に初めて成功した。

FPMN薄膜試料は鉄系強磁性材料であり、その磁性の発生源がFeの磁気モーメントであることを特定する為、室温における高周波透磁率測定を行った。薄膜透磁率の周波数依存性はFig. 3に示すように、1000 MHz周波数近傍でFeモーメント起因の磁気共鳴が観測され、Feモーメントによる磁性起源が明白に示された。

本研究で室温スキルミオン材料Fe2-xPdxMo3Nエピタキシャル薄膜のキュリー温度及び磁性起源が解明された。

Fig. 1 Out of plane 2Θ scanning XRD patterns of FPMN thin film.

 

Fig. 2 MT curves of FPMN thin film measured in floating N2 gas.

 

Fig. 3 Frequency dependence of permeability of FPMN thin film.

 

4.その他・特記事項(Others)

本研究は名古屋工業大学日原岳彦教授との共同研究である。

 

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)

(1) B.W. Qiang, N. Togashi, S. Momose, T. Wada, T. Hajiri, M. Kuwahara and H. Asano Appl. Phys. Lett.,117(2020)p.p. 142401-1−5.

(2) B.W. Qiang, The 65th Annual Conference on Magnetism and Magnetic Materials, 2020年11月4日.

(3) B.W. Qiang, IEEE Magnetics Society Nagoya Chapter Young Researcher Meeting, 2021年1月25日.

(4) 強博文, 第68回応用物理学会 春季学術講演会, 2021年3月16日.

(5) 深澤健留, 第68回応用物理学会 春季学術講演会, 2021年3月18日.

 

6.関連特許(Patent)

「なし。」

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