利用報告書
課題番号 :S-19-NI-0006
利用形態 :技術代行
利用課題名(日本語) :誘電体セラミックス磁器の透過電子顕微鏡(TEM)による構造解析
Program Title (English) :Transmission electron microscope (TEM) analysis of dielectric ceramics
利用者名(日本語) :村田 智城,廣瀬 左京
Username (English) :Tomoki Murata, Sakyo Hirose
所属名(日本語) :株式会社村田製作所
Affiliation (English) :Murata Manufacturing Co., Ltd.
1.概要(Summary )
積層セラミックコンデンサ(MLCC)はエレクトロニクス産業の発展を支えてきた主要な受動部品の一つである。MLCC向けの電子材料としてはチタン酸バリウム(BaTiO3)をはじめとする強誘電体が広く用いられてきたが、BaTiO3ではDC電界下の分極飽和に伴って誘電率が低下するため、DC高電界下においてMLCCの静電容量が低下してしまうという根本的な課題がある。この課題に対し、我々はDC高電界下で高い誘電率を持つ新しい誘電体材料の探索を行っており、1つの候補として正方晶タングステンブロンズ(TTB)型の材料系に着目した。TTB型は多様な組成設計が可能であり、K2RNb5O15(R:希土類)においては、DC電界下で誘電率が上昇する有望な特性が得られている。本研究では、本系のDC電界下における誘電率上昇の起因となる相転移挙動を明らかにすることを目的として、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた構造解析を行った。
2.実験(Experimental)
K2RNb5O15セラミック板を固相反応法で作製した。希土類元素Rの組成としては、R = La0.25Pr0.75の組成を選択した。セラミック板を粉砕した試料に対して、制限視野電子回折(SAED)法を用いて構造解析を行った。またイオンミリングによって加工した薄片試料に対して、SAEDパターンの温度依存性の測定を行った。
利用装置:原子分解能分析電子顕微鏡
3.結果と考察(Results and Discussion)
R = La0.25Pr0.75の組成に対する室温でのSAEDパターンを図1に示す。一般的なTTB型の基本格子が有する空間群はP4/mbmであり、格子定数はa = b ~ 12.5 Å、 c ~ 4 Å程度である。今回の結果では、この基本格子に対して(1/4, 1/4, 1/2)、(1/4, 3/4, 1/2)、(1/2, 1/2, 1/2)とその並進位置に超周期の回折スポットが得られている。室温における結晶構造は、TTB型の基本格子の2√2×√2×2倍の超周期構造を有しており、中心対称性を有すると仮定すれば空間群はPnnaと一意に決定される。空間群Pnnaの構造はこれまでTTB型では報告がなく、本系K2RNb5O15に特有の構造である。誘電物性との対応から、これは反強誘電相に対応すると考えられる。この測定によって、TTB型における反強誘電相のユニットセルサイズと空間群を決定することができた。また、低温での測定では、強誘電相であるIma2相への相転移も観測され、強誘電-反強誘電相転移に伴った結晶構造の変化を、明瞭に観測することに成功した。
図 1 K2(Pr0.75La0.25)Nb5O15粉末に対する室温でのSAED回折。図中左上の数字は入射方位を表す。
4.その他・特記事項(Others)
本研究は、文部科学省委託事業ナノテクノロジープラットフォーム課題(課題番号S-19-NI-0006)として名古屋工業大学「ナノテクノロジープラットフォーム分子・物質合成」の支援を受けて実施されました。名古屋工業大学大学院生命・応用化学専攻の浅香透准教授には、実験ならびに結果の解釈を行って頂きましたことに厚く御礼申し上げます。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし
6.関連特許(Patent)
なし