利用報告書

超耐熱性酵素の熱変性に関する研究
天野良彦1), 水野正浩1),濱田浩彰2) (1)信州大学学術研究院工学系, 2)信州大学大学院総合工学系研究科)

課題番号 :S-20-MS-1023
利用形態 :施設利用
利用課題名(日本語) :超耐熱性酵素の熱変性に関する研究
Program Title (English) :Studies on denaturation of super thermostable enzymes.
利用者名(日本語) :天野良彦1), 水野正浩1),濱田浩彰2)
Username (English) :Y. Amano1), M. Mizuno1), H. Hamada 2)
所属名(日本語) :1)信州大学学術研究院工学系, 2)信州大学大学院総合工学系研究科
Affiliation (English) :1) Shinshu University, 2) Shinshu University

1.概要(Summary )
Pestalotiopsis sp. AN-7は,沖縄県西表島のマングローブ林より単離された海洋性糸状菌である.本菌が産生するβ-1,4-エンドグルカナーゼ (EG) であるPes Cel5Aは,熱処理によって酵素活性が低下しても冷却することによって酵素活性が復活するという特徴的な性質を有する.本研究では,Pes Cel5Aと相同性を有する担子菌 Irpex lacteus NK-1が生産するEG (Il Cel5D) を比較対象とし,これらのEGの熱に対する特性を示差走査熱量計 (DSC) と円偏光二色性スペクトル測定 (CD) によって解析を試みた。
2.実験(Experimental)
示差走査熱量計 (MicrocalTM VP-DSC) で,5~80℃の温度範囲で1℃/minの加熱速度で測定した.測定試料は精製した酵素を50 mM りん酸緩衝液 (pH7.5) に溶解し,蛋白質濃度は0.125 mg/mLとした.
円偏光二色性分光計では、180 nm-270 nmの間のスペクトルを測定した.光路長が1 mmのキュベットを用いた.緩衝液には50 mM りん酸緩衝液 (pH7.5) を用いた.
3.結果と考察(Results and Discussion)
Pes Cel5A及びIl Cel5DについてDSC測定を行い,フィッティングを行った (Fig. 1).その結果,Pes Cel5A及びIl Cel5DのTmは、それぞれ59.26,60.62℃となり,Il Cel5Dの方がわずかに高かった.酵素活性測定法によって得られた両EGの至適温度は,共に55℃であるが,Il Cel5Dの方がより高い温度においても残存活性を有していた.この結果と,DSCで得られたTmの結果は一致していた.また,いずれのEGについても80℃まで昇温測定した後,自然放冷させ,再度同条件にて測定した結果,吸収熱量は50%程度まで減少したが,いずれも同じTmが観測されたことから,これらのEGには可逆的な熱変性機構が備わっていることが示唆された.

Fig. 1  Pes Cel5A及びIl Cel5DのDSC波形.黒線は実測値,赤字はフィッティングさせたもの

次に,両酵素の温度に対する二次構造の変化を調べるために,CD測定を行った (Fig. 2).25℃及び100℃に加え,100℃で測定した後,4℃で再度測定を行った.両酵素の一次構造配列は非常に類似しており,二次構造も類似していることが示唆されている.25℃における波形はこのことを裏付けるように非常に類似していた.また,100℃に加熱させると三次構造の変性が起こり,特徴的な二次構造の消失が起こっていることが明らかとなった.一方,4℃でインキュベーションすることで,25℃における波形に近い方向に偏変化することから,いずれのEGにおいても二次構造の再構築が起こっていることが示唆された.

Fig. 2 Pes Cel5A及びIl Cel5Dの各温度における円偏光二色性分光計による測定

以上のように,DSC及びCDの測定結果より,Pes Cel5A及びIl Cel5Dには,可逆的な熱変性機構が存在していることが考えられる.一方で,酵素活性を指標とした調査では,Il Cel5DはPes Cel5Aよりも温度安定を示すが,熱失活後に冷却しても酵素活性は復活しないことが明らかとなっている.これらのことから,両EGは,(β/α)8バレル構造という基本骨格においては類似した熱変性機構を示す一方で,各二次構造を繋ぐリンカー領域において触媒活性に必要な構造形成が行われていることが示唆された.今後は,各酵素の立体構造の解明とともに,より詳細な熱変性機構を解明していく予定である.

4.その他・特記事項(Others)
なし.

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし.

6.関連特許(Patent)
なし.

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