利用報告書

超高速分子ダイナミクス研究のための新規光電子画像観測装置の開発
水瀬賢太
1) 東京工業大学理学院

課題番号 :S-17-MS-0017
利用形態 :共同研究
利用課題名(日本語) :超高速分子ダイナミクス研究のための新規光電子画像観測装置の開発
Program Title (English) :Development of a newly designed photoelectron imaging apparatus for ultrafast molecular dynamics studies
利用者名(日本語) :水瀬賢太
Username (English) :Kenta Mizuse
所属名(日本語) :1) 東京工業大学理学院
Affiliation (English) :1)Tokyo Institute of Technology

1.概要(Summary )
分子に対する光照射によって生じる電子の空間分布を画像観測する光電子イメージング法は、分子中の電子構造を捉える強力な手法の一つである。近年では、超短パルスレーザー光との組み合わせにより、超高速分子ダイナミクスを電子状態の変化として追跡する研究も行われつつある。しかし、画像観測法自体について言えば、既存の手法では3次元的に放出された電子をすべて2次元スクリーンに映し出しているため、詳細な情報が失われがちという問題点があった。申請者は3次元分布の詳細を調べるために、3次元分布の中心平面を、精密なスリットによってスライス(断層化)して観測する新しい手法を考案した。本利用研究では、独自の測定原理に基づく断層イメージング法のための装置開発と、分子科学実験への最適化を行った。
2.実験(Experimental)
分子科学研究所装置開発室の協力のもと、断層画像化の要である、真空フランジと一体化した精密可変スリットを開発した。スリットエッジの精査のため、NIKON万能投影器を用いた。周辺部品として、レンズ電極、大小各サイズの分子線スキマー、3種類のマイクロチャンネルプレートホルダを専用設計で製作いただいた。その際、NC旋盤、フライス盤、放電加工機を用いている。光電子は微弱な磁場によって、その進行方向が大きく乱されてしまうため、製作にあたってすべての素材を非磁性のものとし、部品の発生する磁場や実験室における磁場を最小とした。なお、磁場の計測評価のため、マイコンチップと磁気センサーを用いた磁場測定器を開発いただいた。
 3.結果と考察(Results and Discussion)
 製作いただいた部品類を、専用設計の真空装置に組み込み、断層イメージング装置を製作した。装置は分子線源、レーザー照射部、イメージング部からなる。分子ビームに対する高強度レーザー照射で生じたイオン・電子の空間分布を試行的に画像観測した。予備測定により、光電子がテスト検出器まで到達していることが確認できた。また、本装置の心臓部である、フランジマウントスリットは0.1mm単位で電子雲の透過を制御できており、高分解能断層画像化に十分な仕様であることを確認した。また、残留磁場は100mG以下であることが確認できた。今後、本装置を用いて、光電子断層画像観測の世界初の実現を目指し、新しい測定法をもって分子科学の発展に寄与したい。

4.その他・特記事項(Others)
なし。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) Mizuse, K.et al., Real-time ion imaging-based rotational/vibrational spectroscopy of nitrogen dimer, The 2nd Asian Workshop on Molecular Spectroscopy, A4,Mar.9, 2018 (招待講演)
(2) Mizuse, K., Ohshima, Y. High-resolution Ion Imaging Study of Ultrafast Molecular Rotational and Vibrational Dynamics, Asian Conference on Ultrafast Phenomena 2018, Jan. 9, 2018 (招待講演)
(3) 水瀬 賢太, 大島 康裕
新規振動回転イメージング分光法による窒素分子クラスターの構造とダイナミクスの研究
第7回光科学異分野横断萌芽研究会, Aug.10, 2017
他15件
6.関連特許(Patent)
なし。

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